アースシーの風: ゲド戦記 6 (岩波少年文庫 593 ゲド戦記 6) 単行本 – 2009/3/17
アーシュラ・K. ル=グウィン (著), ディビッド・ワイヤット (イラスト),
「アースシーの風 ゲド戦記Ⅵ 作:ル・グウィン 訳:清水真砂子」を読んでみた。
死者と生者。竜と人間。東と西……の話だった。これ、設定だけなら楽しいけど、細部がモヤモヤするのは『不死を人は求める』というテーマだからだろうな。
不死を求めるのは権力者だけ。もしくは、権力をもった人間だけなんだよな。これ、西のはての年代記の時も、うっすらモヤモヤしていたけど、どのキャラも価値観が『特権を持った人たちの感覚』を抜け出せない感じのものがあるからだと思う。だから、ここにでてくる下層に見える人たちへの侮蔑や侮辱の言葉が描写というよりも、『本当にそのまま』な感じで好きではない。
そして、キャラが足掻かないんだよな。ここまで数作読んできたけど、ル・グウィンの作品は『決められた道をキャラクターが歩く』のであって、キャラクターが足掻きながら何かを得る物語ではない。全ての道は綺麗に整えられているし、キャラクターたちも最初から能力が付与されている。だから、『物語』で引っ張っていく作品なのだろうなと思う。設定は綿密に練られていて、読者をひきつける場面はしっかり用意されているなぁと思いながら読んでしまったけど……要するに『合わない』んだよな。
章ごとに見ていく。
第一章 緑色の水差し
妻が死に、死者の国で自分を呼ぶ夢を見たハンノキがその後も死者たちから呼ばれる夢に苦しみ、ゲドに相談に来る。しばらくゲドと共に暮らすが、ゲドはハンノキを王の元へと向かわせ助言を得るように言う。
第二章 王宮
王宮ではガルガド帝国から王女が妃にと送られて来ていた。王であるレバンネンはこれを快く思ってなかった。また、西側では竜たちの侵略の報告があり、そこにハンノキの死者の国の問題まで持ち込まれてくる。王はまず、竜の問題を解決するために竜と話し合うことにする。テハヌーが竜の言葉を理解することが出来ることがわかり、テハヌーが話し合いにと向かう。
第三章 竜会議
テナーはテハヌーを見送り都に残り、ガルガドからやってきた王女にハード語を教える。やがて、王とテハヌーが戻り、竜を一時的にいさめることが出来るアイリアンが都にやってくる。議会が開かれ、話し合いがなされ、竜とガルガドの王女セセラク、さらにハンノキたちも連れて魔法使いの島ロークへ行き、長達の話を聞くことになる。
第四章 イルカ号
皆が思い思いに過ごし、船の中では徐々に王女と王の距離が縮まる。
第五章 再結集
ローク島についたが、学院の代表である呼び出しの長からは良い顔をされず、一行は”まぼろしの森”へと向かうことにする。
そこで、長達と話し合いになったが、結論が出ず、気が付けばハンノキは再び死者の国に呼び戻されている。長達はハンノキの決断が世界を決めるとして、それを待つことにする。
ハンノキは死者の国の生け垣を壊し、死者たちを解放した。テハヌーは竜の世界に戻り、世界は『全きもの』へと変わっていった。
アースシーの物語をぎゅぎゅっと詰め込んだような物語。竜たちの話にガルガド帝国に伝わる話、さらに不死についての話などいろんな物語が詰め込まれていた。
世界観を楽しんでる人にはたまらない物語なのだろうな。
でも私は、前作の『最後の書』もこの『アースシーの風』も『魔法より愛の方が深く様々なことを知っている』みたいなのには吐き気がしてしまうんだよな。いや。どっちもいいところあるよではダメなのか。ここにきていきなり愛を知らないのは、何も知らないことだみたいなのは気持ち悪いんだよな。
『人は義務を負い、結婚し、この世のくびきにつながれるもの』245p
こういうのも正直、吐きそうになる。前作と同じく。いきなり何言ってるんだ?どうしたんだ?と思った。この、『家族っていいよね』の押し付け感が気持ち悪いんだよな。
『技があるということは、たどるべき道がわかっているのと似ている』258p
こういうの『西のはての年代記』もそうだったけど、普通に暮らしている人間の大半は『自分の技』なんて気が付くこともなく『毎日やるべきことだけをやる』ことの続きで生きていくしかないんだよな。そして、今は『やるべきことすらない』状態の貧困層もいる。なんていうか、持たざる者。何もない人間や奪われつくされた人たち……みたいなのは一切出てこないの平和だなと思う。その辺りをスルーして書く物語なら気にしないんだけど、テハヌー(テルー)を出してきてるせいで微妙に引っかかって転びそうになる。
三冊でやめておいた方がよかったのでは?と思うのはだめだろうか。
三冊で終わってたら『そういう物語』だと思えたけど、続きを読むと……違和感が膨らむ。
ごちそうさまでした。
『アースシーの風』
ゲド戦記シリーズ
「影との戦い」を読んで
「こわれた腕環」を読んで
「さいはての島へ」を読んで
「帰還」を読んで
「ドラゴンフライ ゲド戦記伝外」を読んで
「アースシーの風」を読んで
アーシュラ・K・ル=グウィン作品の他の感想
「どこからも彼方にある国」を読んで
「闇の左手」を読んで
「絵本「いちばん美しいクモの巣」を読んで
「ギフト西のはての年代記Ⅰ」を読んで
「影との戦い ゲド戦記Ⅰ」を読んで
「空飛び猫 空飛び猫シリーズ1」を読んで
「ラウィーニア」を読んで