当たり前の日常を手に入れるために:性搾取社会を生きる私たちの闘い
単行本 – 2022/9/2 仁藤 夢乃 (著, 編集),
奥田 知志, 金澤 信之, 川村 百合, 細金 和子, 森川 和加子
「当たり前の日常を手に入れるために 著:仁藤夢乃 奥田知志 金澤信之 細金和子 森川和香子」を読んでみた。
性搾取被害に遭う少女たちと共に活動するColaboの話。
これすごいのが『支援』じゃなくて『活動』なんだよね。言葉一つまでとことん考えて使われてる。
売春少女じゃなくて性搾取被害にあった少女。買春の問題を徹底的に突き詰めてるのもいい。
今まで読んできた児童虐待防止系(この本は児童虐待防止に関するものではないけど)の本は専門家たちの話だった。児童福祉士とか医療関係者とか教育者とか、そういう視線からの本はいいろいろ読んだけど、『当事者活動』としての本はこれが初めて。何に気を付けてるかどういう視線で活動するかが書かれてる。
今までの本は『何が原因か』『保護した後で彼らはどう変わるか』だったけど、でも結局極限の状態にある子供ほど保護した後は酷い状態=人間不信で大人を試しまくる。ので、対応が困難で行き場がなくなるというどうしようもない話で終わってたりした。
(時々、里親が頑張ってかなり長期間かけて子供が落ち着くという話で終わる事もあるけど、それは本当に稀)
この本は『それでもどう接するか』が書かれてる。専門家すら投げ出しかねない状況の子たちを必死でこちら側に戻すの……戻ってきてるのか分かんない状況の子の話もあったけど、でも繋がっているというのは救われる。
ざっくり章ごとに見ていく。
1.活動スタート
Colaboの仁藤さんの高校時代の話と活動の始まりが書いてある。
正直、何がどうなってフィリピンに行って、大学進学になったのか掴めない。でも、そこは主題ではないような気がするので、気にしない事にする。運がよかったという事なのだろう。東日本大震災がきっかけで活動をはじめるようになって、地方も性搾取に取り込まれる青少年がいる事を知ったとある。
ネットがあればどこでも性搾取は出来てしまう。暴力の問題は都会も地方も変わらないだろうし。
対談で学校との連携の話も出ていた。でも、普通の学校だと難しいという話だった…教師たちは忙しくて生徒一人一人の様子にまで目が行き届かないし、児相のケースワーカーも受け持つ数が膨大で丁寧に接することができないという話。一番ケアが必要な場所なのに人員が足りていない。
こういう話は他の本にも書いてあった。現場はてんてこ舞いで、どんどん酷くなっているみたいなの……本ではなくてネット記事だったかな。どこで拾ったのかわからなくなる。
2.Tubomi 声をあげる
「私たちは『買われた』展」の話が書いてあった。援助交際ではなくて、『児童買春』だという訴えと、買われた子たちの気持ちが書いてある。
これも調べてると色々出てきてて、知ってる。
でも、世間の目は冷たいのも知ってる。
弁護士さんとの対談は読みごたえがあった。「ノウハウ」ではなく「女の子たちと向き合う姿勢」という話も良かった。弁護士さんが女の子が出ていったときは内心ちょっとドキドキしていたという話も、人間っぽいって思ってしまった。いや。人間なんだけど、こういう活動に関わってる人ってもっと鉄の心臓を持ってるのかなと。仁藤さんは鉄の心臓持ってそうだけど、どこでその心臓を得たのだろう。
「居場所」とは「関係性」って言えてしまうのもすごいなぁと。でももっと言うなら、そもそも『家族』って『関係性』なんだよね。家族は一緒に暮らしてるとか血が繋がってるとかじゃなくて『何でも話し合える関係性』のハズなんだよね……と思ってしまった。(そんな家族がどれだけあるのか疑問だけど)
Colaboの関係性って、『理想の家族像』な気もしてしまった。いや。理想って変だな。正常な? ん。。なんか違う。どういえばいいのだろう。わからないけど、そんな感じ。
この対談に15歳の喫煙を「そうなんだ」と言った大人の話が載ってた。これ、私が実際に体験したのと似てると思ってしまった。
その子は18歳で私は21ぐらいだったかな。職場の人で、他の大人たちもその子の年齢を知っていながら、『喫煙所で話が出来るからいいじゃん』って言っていた。私は吸わないし、未成年が隠れて吸うならまだしも(いや。よくないけど、隠れるってことは悪いってわかってるってことだと思う)大人が「いいじゃん」って言うのはなんだかなと思ってた。
わたしより年上の人たちが「それくらい」な対応をしてるし、職場ではない趣味の繋がりの人にも話してみたけど、「めんどくさいし、関りが少ないなら放っておけば」みたいなことを言われて、悶々としていた。
さらに会社で飲み会があって、その子も行くという話が出てて……私は行かなかった。お酒も飲むみたいな話だったから。当時、私は二十歳越えてたけど、どうしたらいいのか分からなかった。それくらい放置するのが大人のたしなみなのかとか。職場の関係を悪くしてまで言う必要はないしなとか……でも、私、職場でも少し言っちゃってたから、他の人からは『あいつ真面目。メンドクサイ』と言われてただろうなとは思う。
『よくないよね』って言ってくれる大人(年上の人)が欲しかったんだなと、この本を読んで思った。この本のすごいところ子供に対して『悪い』とは言わないんだよね。『よくないよね』って書いてある。あ。『悪いのは社会と大人』とは書いてある。うん。ホント大人が悪い。反省。
3.バスカフェをつくる
貧困者が追いやられ、女の子たちが補導されるのはおかしい。安全な居場所になれるバスカフェの活動の話。
捕まえるなら買春する男と斡旋業者の方と訴えて、日本の現状を海外メディアに伝えたら攻撃されるようになったという事まで書いてある。
こういうのほんとどうかしてるよね。海外メディアに訴えないと日本に伝わらないの変。ジャニーズもそうだったけど。他にもいくつかあった。日本メディアは機能してないのかなと思う。
女性福祉の対談は……ズレてるなと思ってしまった。仁藤さんが活動であって支援ではないって言ってるのに、『女の子の中から、支援者に育て行くことも考えられるのかしら?』と。そのあとずっと仁藤さんの話で埋まってるのはつまりそういうことなのかな……と勘繰ってしまう。勘繰りすぎ? 弁護士さんとの対談が二人三脚っぽい感じだっただけに、アレ?と思ってしまう。
4つ目の対談は、仁藤さんのビジョンが明確なんだなと改めて思った。ビジョンが明確だからブレがない。そこまで鮮明なビジョンが見えてるのすごいな。
4.共に行動してきたこと
「出会いに行く」「共に考え、行動する」を大切にしているという事が書いてある。一時的な付き合いではなくてその人の人生そのものに付き合う姿勢でいる。……え。それって親がやることじゃんと思ってしまった。でも、それができる親もどれだけいるんだろうとは思うけど。
5つめ。最後の対談はここまででインタビューでかなりの頻度で出てきたスタッフ「わかちゃん」との対談。なんか、普通な感じ。ここまでの対談は肩書きがすごいなぁと思うような人だったけど、普通だけどスタッフやってるだけあって普通ではない。
ちゃんと色々と『ひっかかる』ことができる人なんだなと思った。ちゃんと引っかかって、繰り返さないようにちゃんと気付ける……っていうだけで、貴重な人なのが分かる。
文字だけだけど、仁藤さんの信頼感もすごいなぁ。いい感じだなぁと思いながら読んでしまった。
どんな思いで活動してますか。の質問に「やるしかないから」っていうのもいいな。落ち葉の中で寝てる子がいたら『泊める』っていうのが素敵だ。
随分前にテレビでアフリカかどこかから来た部族の人が「なぜ、家のない人に家を作ってやらないんだ。信じられない」って言ってたのがすごく印象的で。彼らの村ではみんなで協力して家を作る。そんな世界から来た人から見たら、『家のない人を放置している事』はあり得ない事なんだなって。彼らの村では全て協力しないと生きていけないから。
切り捨てられる人がいる社会って言うのが信じられないんだろうなと。
社会って元々、『みんなで生きるためのもの』だから、信じられない人の方がある意味、正常なのかも。でも、皆余裕がないから、正常な思考を持てないんだろうな。
正常な感覚を持ててる人、すごい。
5.これからのCilabo
これからも性搾取。性売買の問題に取り組むよという話。とColaboの活動のこれまでが最後にさらっと書かれていた。
間に女の子たちのインタビューが挟まってる。
「Colaboは自分と向き合うことになるから辛いよ」という脅し(?)のような文句が挟まってるんだけど、これ、違うと思うんだよね。辛いのは『自分を殺さないと社会に適応できない』現状で。現状の社会がおかしいだけ。本当は小さい頃から『自分と向き合う』方法とか、その為の言葉とか、やり方とか、色々と学んで『ちゃんと言葉にする(伝えられるようにする)』事が出来た方がいいし、社会も『いろんな人の声を聞く姿勢』を持てた方がいい。そっちの方が健全な社会だと思う。北欧だったかな。そっちはそいう姿勢の社会だみたいなのを見たような。
民主主義ってそいうことだよね。たくさんの人の意見を聞いて、ああだこうだ言い合って社会の方向を決めるの。意見を言わず、黙ってルールに従えというのは奴隷教育だよ。
Colaboが厳しいんじゃなくて、『奴隷教育(個人の意思を無視して同調圧力優位のための教育)』をしてる社会がおかしい。と、思ってしまった。
素敵な本だった。読んでよかった。ありがとうです。