影との戦い: ゲド戦記 1 (岩波少年文庫 588 ゲド戦記 1) 単行本 – 2009/1/16
アーシュラ・K. ル=グウィン (著), ルース・ロビンス (イラスト), Ursula K. Le Guin (原名),
「影との戦い ゲド戦記Ⅰ 作:ル・グウィン 訳:清水真砂子」を読んでみた。
ゲドの物語。アニメ映画、ゲド戦記は何度見ても理解できず、原作を読めば理解できるのだろうか……と思って手に取ってみた。ル・グウィン作品も読みたかったので、期待値は上がる。
事前情報はファンタジー作品というだけで、頭の中では先に読んだ「西のはての年代記」のイメージがあった。棚も『ヤングアダルト』だったので、似たような感じの物語かなと……。違った。思ったよりも年齢低めの中学生対象だった。
読みやすい。わかりやすい。……でも、物足りない。
この前にトニ・モリスン作品を読んでいたのも影響している。濃厚な物語の後では、児童書は物足りなく感じてしまう。
さらに言えば、「闇の左手」と同じく男の物語なことにもがっかりしている。主人公であるダニーに最初にまじないを教え、魔法の道に導いた伯母の名前が一切出てこないし、主人公の母親の名前すら出てこない。それどころか父親の名前も。主人公の幼少期を書きながら、そこに関わる人間たちの名前がないのは『魔法使いではない』のと、『物語として価値がない(一村人だから)』のかなと思ってしまう。村人・まじない女に対する書き方も中々に酷い。期待値を上げ過ぎたので、ここからは下げて語る。
物語は『ダニーがゲドの名前を得て、魔法使いになり影と戦う』までが書かれている。
目次ごとに見ていく。
1 霧の中の戦士
ダニーの幼少期。叔母から教えてもらったまじないで敵(ガルガドの兵)を追い払い、師匠であるオジオンに出会う。オジオンから『ゲド』の名を授かり、旅に出るまで。
事件がポンポンと起きるので、引き込まれてしまった。そして、最初の場所はどこだ……と地図で探す。島が多すぎて探すの大変。と思ったらページを少しめくると拡大地図があった。わかりやすい。
2 影
ゲドはオジオンと暮らし、そこで出会った領主の娘にそそのかされて、知恵の書をオジオンに無断で見てしまう。影と出会ったゲドは魔法を習うためにローク行きを決める。
タイトルにもある『影』が早くも出てきてささやく。でもここまでで、ゲドの傲慢さがあからさまに出てきてるので少々ウンザリもする。
3 学院
ロークで魔法を習う学院に入り、様々なことを習い友人も出来る。オタクという小さな獣のお供も出来る。
4 影を放つ
とある祭りの日、ゲドはライバルの言葉に乗って死者の霊を呼び出そうとする。しかし、出てきたのは影で、大賢者がゲドを救うために命を落とし、ゲド自身も大きな傷を負う。
学院話はハリーポッターみたい……とは思えず、小難しい話が続く。魔法の心得だとか、あれはやってはダメだとか、これはこうなるから難しいとか、理屈がたくさんある。正直、めんどくさい。
5 ペンダーの竜
学院を卒業したゲドはロークを出て竜がやってきて困っているという島へ向かうことになる。しかし、そこにも影が近づいてきて、ゲドは直接竜と話しをしに行くことにする。
ファンタジーにつきものの竜。賢く、強く、古の言葉を持つものたち……らしいのだけど、思ったよりもそうでもないのが少しがっかりしてしまった。物語が速足すぎるせいかな。
6 囚われる
竜を退けて、ロークに返ろうとしたけれど、ロークの結界に阻まれて入ることが出来なかった。ゲドは、影から逃げるように移動していくが、最後には追い付かれてしまう。
7 ハヤブサは飛ぶ
影に捕まったと思ったゲドはテレノン宮殿の婦人に助けられる。そこで過ごすうちに、そここそが影の目的地だった事を知り、ハヤブサになり逃げ出す。ゲドはオジオンの元に戻り、そこで影に立ち向かうようにアドバイスをもらう。ゲドは影を追うことを決める。
8 狩り
影を追ううちに、浅瀬に乗り上げ船が壊れてしまう。そこは小さな中州のような場所で男女の老人が住んでいた。ゲドは彼らの助けを借りつつ、船を直す。ゲドは二人を連れ出すつもりだったが、二人は断ってきた。代わりにゲドに腕環のような金属の欠片が手渡された。
次の巻の話がここでちらりと出ている。「こわれた腕環」はこのシーンの事なのね。と思いながら、読んだ。少し説明臭いのも気になった。
9 イフィッシュ島
イフィッシュ島で友人、カラスノエンドウに出会い、ともに影を追う旅に出ることになる。
学院での友人カラスノエンドウがここでも出てくるんだと思った。名前が面白いなと思うけど、これは原文も『面白い名前』として書いてるのか、それとも『あり』な名前なのかどっちなのだろう。
10世界のはてへ
影を追い詰めたゲドはやっと影の名前を知り、影と一つになる。
ここ、映像化したら面白いシーンなのだろうなぁと思いながら読んでしまった。最後は圧巻だけど、正直文章だけだと何が起きてるのかわかりづらい部分もある。
最後に気になった部分。
『そなた、エボシグサの根や葉や花が四季の移り変わりにつれて、どう変わるか、知っておるかな? それをちゃんと心得て、一目見ただけでも、においをかいだだけでも、種を見ただけでも、すぐにこれがエボシグサかどうかがわかるようにならなくてはいかんぞ。そうなって初めて、その真の名を、その全存在を知ることができるのだからな。用途などより大事なのはそちらのほうよ。そなたのように考えれば、では、つまるところ、そなたは何の役に立つ? このわしは? さてはて、ゴント山は何かの役に立っておるかな?』32p
ゲドの言葉を受けた、オジオンの言葉。役に立つかどうかではなくて、相手を知ることが大切だと説いている。これが巡り巡って『影(自分の中の邪なる心)』も知る必要があるという物語なのだろうな。
影におびえる必要も逃げる必要も追いかける必要もなくて、それはただ『そこにある』というだけの物語だから、別に影に勝ったわけではない。
『「な、終わったんだ。終わったんだよ。」彼は声をあげて笑った。「傷は癒えたんだ。おれはひとつになった。もう、自由なんだ」』270p
ゲドが共に旅について来てくれたカラスノエンドウに言った言葉。
『ひとつになった』となってるので、影は消えてない。そこにあるものとして、ゲドが影を受け入れてる。戦いだけど、勝敗がない。
これはそういう物語……。
『影との戦い』