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「ギフト」を読んで

2024/03/10

ギフト (西のはての年代記 (1)) 単行本 –
2006/6/21 アーシュラ・K. ル=グウィン (著),
Ursula K. Le Guin (著), 谷垣 暁美 (翻訳)

ギフト (西のはての年代記 1)

「ギフト 西のはての年代記Ⅰ 著:ル・グウィン 訳:谷垣暁美」を読んでみた。

読書週間と聞いたので、読みたいと思ってた本を読みたい。ファンタジーがいい……と思って選んだ本。ゲド戦記も読みたかったけど、西のはての年代記の方が冊数が少なかったので、こちらから。

闇の左手』と同じ作者さん。

〈もどし〉のギフトを持つカスプロ一族の話。……これだけで、ゾクゾクする。面白そう。
あらすじ::
カスプロのオレックが子供時代を振り返って、旅人エモンに話す。オレックは子どもでギフトが使えなかった。使えるようになる年齢になってもまだギフトが使えなかったが、ふとした拍子にギフトが発動して蛇を殺してしまう。次には子犬を、さらには地面一帯を荒地に変えてしまい、『荒ぶる力』だと思ったオレックと父親は目隠しをしてギフトの力を封じる。
長く目隠しで目の見えない生活をしていたオレックはやがて力をふるったのは父親だったのではないかと考え、その疑問を父親にぶつける。父親はそうではないと答えるが、その後、他の一族との争いで死んでしまう。
オレックは一族を他の者に任せて、恋人のグライと故郷を離れる。

『ギフト』のタイトル通り、ギフトという単語がこれでもかと出てくる。
ギフトとはその一族に伝わる『不思議な力』父親から息子へ、母親から娘へと伝わり、血が薄まると力も弱まるため定期的に血の濃さを求めた婚姻が繰り返されている。
一族ごとにそれぞれ違った力を持っている。
グライの一族は〈呼びかけ〉のギフトでグライも母親からそのギフトを継いでいる。

血筋の話だけではなくて、世界観もすごい。オレックの住む場所である高地とエモンやオレックの母が住んでいた低地の差も書かれている。高地では本がないので、母親が布から本を作ったという話まである。執念、すごい。そして、本がないのでオレックは母親が本を作るまで本を知らなかったし、父親に至っては本の価値が分からない。母親は低地の人間で文字が読めたので、子供たちに文字も教えている。

文化の差がこれだけでありありと分かるのすごいし、『文字も本もないというのはどういうことか』がこんなに書かれているの、読んでるだけで楽しい。

文字がないという事はそれだけ集団の規模が小さく、他との交流がないという事。それが『低地から来た母親』がいるおかげで、どれだけの差があるのかという事も分かる。母親のメルはあまり出てこないけど、主人公の親としての存在感がすごい。
同時に父親も『ギフト』を使う者としての存在感がすごい。息子がギフトを継ぐことへの期待と失望。それが分かってしまうオレックの痛み。

文字がないから粗野な部分はあるけど、基本は『子供も人間として扱う』姿勢だしそのために散りばめられている細部が素敵すぎる。

『闇の左手』では馴染めなかったけど『ギフト』が伝承やその世界での物語を交えながら進む物語だったことで、作者の書き方がこうなのかなと思った。でも、キャラについてはやはりよくわからない……と思う点はある。
『闇の左手』もキャラがどんな思考・価値観からそうしたのか分からなかった。でも『闇の左手』は誰も何も説明してくれないので、説明されている部分からくみ取るには情報が圧倒的に足りないというものだった。

『ギフト』のオレックの父親は態度は分かるが何を思っているのかよく分からないまま終わってしまった。特にラストの『息子にはギフトがない』と知った後はどう思っていたのか分からないし、この先どうするつもりだったのかも分からない。なぜ、息子を危険な『他部族との争いになる場所』に連れて行ったのか。ギフトがないと分かっているのに……息子にギフトがないのだと納得していたのかも分からない。
父親は『冷たい目』だとオレックは思ったのはわかるけど、オレックの視点なので実際に父親が『冷たくしよう』と思っていたのかも分からない。ただ『戸惑っていた』様子が『冷たい目』に見えただけかもしれない。

『わからない』まま物語は終わる。
わからないけど面白いし、世界観は最高だし、物語も素敵だ。
分からない面白さもあると私は思ってるので、『分からないから不満だ』という感想ではない。キャラの感情をずっとああかなこうかなと考え続けて、ふと、全く別の作品から『こうだったんだと』ひらめく瞬間もある。私はそう言うものも『面白い』と思ってる。


ヤングアダルト作品なので=中高生くらいの子どもにもお勧めの一冊。ファンタジー好きなら、本を開いたところにある『地図』だけで、ワクワクしそう。私もすごくワクワクした。ワクワク。


『ギフト』