帰還: ゲド戦記 4 (岩波少年文庫 591 ゲド戦記 4) 単行本 – 2009/2/17
アーシュラ・K. ル=グウィン (著), マーガレット・チョドス=アーヴィン (イラスト),
「帰還 ゲド戦記Ⅳ 作:ル・グウィン 訳:清水真砂子」を読んでみた。
うーん。もやもやしたものが残ってしまった。テナーの立場が元々『高位(男の姿がない世界)』だったから、元の地位だったらこうではないのにみたいなものにも見えてしまう。つまり『自分が女性だから不当に扱われている』ではなくて、『自分は高位であるはずなのに、相手(男)が不当に扱ってくる』という対立っぽく見えちゃうんだよな。
では、子どものテルーの立場はどうかと言えば、男たちが執着する必要性がわからない。
この世界設定とテルーの設定と物語のテーマがいまいち合致せず、モヤっとしたものしか残らなかった。個別に見たら素敵だという事はわかるのだけど、合わせると微妙にあちこちズレてるような感じがする。
それとも私が感じた『物語のテーマ(女子供の苦しみと男たちの苦しみ)』は間違っていて、単に『物語(世界観)を楽しむ』に全振りしたらよかったのだろうか。
ゲド戦記を楽しみにしていただけに、世界観に没頭して楽しむことも、物語に惹かれることも、テーマに感動することも出来ない自分にがっかりし続けてる。
キャラクターが魅力的かと言われても、うーん。これというエピソードが見当たらない。設定が強烈で、設定だけで押してる感じがする。テナーに至っては『普通の女になるために努力した』となっているけど、それは『全てを持ったものの特権』でしかなくて、共感しずらいんだよな。こういうの全部もやんとする。
そして、最初の方は『貧しい人たち』『持たざる人たち』への視線が差別的で、読んでて辛くなってしまった。テナーの特権性がよくわかる。『短気で、無知で、陰険で、みだら』54-55pとコケばばに対して書いてある。これが、最後の方は体調が悪いと聞いたら駆けつけるくらいには仲良くなるのだから不思議だ。
物語を見ていく。
1 できごと
子どもが火で焼かれたという知らせが入り、助けるためにテナーたちは奔走する。子どもは死にかけたけれど、助かる。
2 ハヤブサの巣へ
子どもをテルーと呼んでテナーは一緒に暮らす。やがて、オジオンの体調が悪いという知らせを貰いテナーはテルーを連れて旅立つ。
3 オジオン
オジオンの元にたどり着いたテナーとテルー。オジオンはテナーに真の名を明かして死んでいく。
4 カレシン
竜がテナーの元に舞い降り、ゲドを渡していく。ゲドの容態は悪く、テナーは必死で看病をする。
5 好転
呪い女であるコケばばの手も借りて、ゲドは徐々に回復していく。テルーはヘザーに懐き、オジオンの家での生活は明るいものになって行く。
6 悪化
元気になったように見えたゲドだが、魔法の力を失った事に対して気持ちがついていっていなかった。気分がふさぎ込むようになり、テナーともちょっとした言い合いになる。
7 ネズミ
王の使者がゴント島にやってきたことを知り、ゲドは身を隠すことにする。
8 タカ
ゲドはテナーの家へと行ってしまう。テナーはテルーをヘザーに任せて出かける。帰って来るとテルーがいなくなっていて慌てて探すと、家の暗がりからテルーが出てきて父親たちが来たことを告げた。
9 ことばを探す
テルーの父親が領主の館で働いてることを知ったテナーは領主の館へ向かう。しかし父親の姿はなく、魔法使いと話すことになる。この時にテナーは魔法使いを怒らせてしまう。
テナーは父親のことは諦めて、テルーを常に傍に置いて過ごすようになる。しかし、村で子供たちから石を投げられ不安を感じ、元の家に戻ることを決める。
急いで旅の支度をして、オジオンの家を離れたが、運悪くテルーのおじに見つかり港で、見知らぬ船に助けを求める。
10 イルカ号
助けを求めた船は王の舟だった。テルーのおじは追い払われ、テナーとテルーは船の中で王と話をして村に近い港まで送ってもらうことになる。
11 わが家
家に戻ると、ゲドはいなかった。使用人に聞くとゲドはヤギ使いとして山で仕事をしているという。
しばらくたったころ、家に3人の男たちが押し入ってきた。テルーの父親たちだった。テナーは包丁を構えたが、その前にゲドが男の一人を熊手で刺してしまって重傷を負わせてしまった。テルーとゲドは怪我をした男を家の中に運び込んで、最低限の処置をして朝を待った。
12 冬
朝になると、ゲドはいなくなっていて、テナーは昨夜のことは夢のように感じた。しかし、ゲドが村に行き状況を話していてくれたおかげで、男たちはすでに捕まりけがをした男も助かりそうだという事を帰って来たゲドから聞く。
そのままゲドはテナーたちと一緒に暮らすようになる。
13 賢人
春になり、テナーの息子のヒバナが帰って来る。コケばばの体調が悪い事が伝えられ、テナーたちはヒバナに農園の全てを渡して、オジオンの家に行くことにする。ゲドとテナーとテルーは旅立つが、オジオンの家につかづくにつれて、テナーは言葉を忘れていく。やがて、オジオンの家ではなく領主の館への道を行き、領主の魔法使いがテナーとゲドを絡めとってしまう。テルーは一人逃げ出す。
14 テハヌー
テルーは竜を呼び、テナーとゲドを魔法使いの呪いから解放する。テナーとゲドは竜のカレシンがテルーを『わが子』と呼んだことを知り、状況を理解する。テルーは竜の世界には戻らず、ここでテナー(母)とゲド(父)と暮らすことを決めた。
……こんな感じの物語。魔法というか、呪いの要素がよくわからなくて面白かったな。
気になったところ。
『なぜ男は女を束縛するさまざまな事態に無頓着でいられるんだろう。』108p
テナーがゲドに対して思うこと。テルーの面倒を見るために大人が一人必要ということがゲドにはわかってないと憤っているシーンだけど、ゲドは父親でもないただの同居人だと考えると男女問わずこんな感じでも不思議ではない。まして、テルーと出会ってまだ日も経ってないのだから、『面倒をみろ』というのも無茶な話な気がする。
『テナーにはゲドの無念さや屈辱が自分にはわかっていないと感じるのをどうすることもできなかった。もしかしたらそういうものは男だけが感じるのかもしれない。女は屈辱なんて慣れっこになっている』134p
さらりとかなり酷いことを書いてあるなぁと思いながら読んだ。
屈辱に慣れることほど屈辱的なことはないのに、『無念や屈辱は男だけが感じる』ことにされてしまっている。女の屈辱は次から次に襲ってきてきりがないとでも書いてくれた方がマシ。
あちこちにある『女性蔑視』が『見下し』や『(女の)話を聞いていない』という話になってるのも、気になってる。でも、この時代ならこういう話が先鋭的だったのかな……とも思うので、モヤモヤする私がおかしいのかとも悩む。
さらに言えば、『女子供は犯されるだけの存在。可哀そう』みたいな露骨な弱者設定もどうなのかなと。いや。わかりやすいけど、だったら、『男(ゲド)の苦しみ』を出してほしくはないし、『男の苦しみ』も『女子供の苦しみ』も書こうとしてるのでモヤんとしてしまう。もう少し、話の焦点を絞ってほしい。
と、モヤモヤが止まらなかった。この辺りでやめておく。
ごちそうさまでした。
『帰還』