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某文学賞の感想。

2024/02/13


今年も感想を書くのです。今年は三作、失くしてない。地震でワタワタしてたけど、作品の載った新聞はちゃんとキャッチできた。

「疾風迅雷、駆け抜けろ」
イノシシ狩りをする女性の物語。
タイトル通り『駆け抜ける』空気感がすごいと思った。山を荒らすイノシシ。それを狩るための猟銃も罠も使う。そこに『離婚した出戻り女性の境遇』も絡まって、ぐいぐい引き込まれていく。こんなにかっこいいのに、結婚を勧めるなんて……と思ってしまった。
30代……ラストチャンスという事だろうか。40代になると周囲も諦めてくれると思う。これ、しっかりと『親は幸せな結婚だったから』という理由付けが書かれてるのがいいなと思ってしまった。そして、一度は結婚したその相手も『交際相手が妊娠したから』と離婚を切り出すの……かっこいい。いや。不倫は良くないけど、ちゃんとけじめをつけようとしてるのはかっこいい。
どこを切り取っても『かっこいい』と思わせてくれるシーンばかり。
主人公のカッコよさはもちろん、周囲の人たちもかっこいい。そして、猟犬たちもかっこいい。
もちろん、猪も最後までカッコイイ。
惚れてしまう作品だった。


「ヤモリの宿」
定年後に一人旅をして安民宿に三日間泊る男の話。
淡々としているけど、民宿にいる精神年齢が三歳の小学一年生『さっちゃん』が物語を引っ張っている。
泊っている人たちの風景もさびれた感じの観光地の風景もいい感じかなと思う。あと、虫や魚たち。特に『ヤモリ』の騒動シーン。
さっちゃんが男にヤモリを見せようとするけど、逃げ出して食堂にいた宿泊客が驚く。一人一人の反応が違っている。子供たちは興味津々で大人は嫌悪をあらわにしている。
淡々としているのに、ちゃんと物語を動かすシーンはあるし、読んでしまう。
『疾風~』が家族が順風(離婚はしてるけど)な感じだったのに、『ヤモリの宿』は家族が崩壊している。でも、それを表に出さずに『何事もないような風景』になってるのは少しホラーな感じもする。
ただ、短編でそこまで掘り下げるのは無理なので、『重いものがあるけど、幸せな時間もある』程度が丁度いいんだろうな。

主人公が読んでる小説の話まで絡んでくるのは面白いし、あれはあれで伏線なのかな。
安民宿で殺人事件は起きない。


「新・豪華ホテル」
老人ホームに入れられる老人の物語。老人のリアル……リアルだけど、勢いがあって引き込まれる。「新・豪華ホテル」は老人ホームを皮肉って言っている。
老人ホームは『あぶない』であれもこれも禁止されるとあるけど、これ子供たちが通う学校の方が顕著かもしれない。
私たちは、子どもの頃にいろんな制限をされて、大人になってその制限がなくなって、老人になってまた制限ある場所に戻る……のでは?と思ったけど、90代だと学校はそこまで厳しくないし、下手したら農家の労働に駆り出されて学校にそんなに行っていない状態かもしれないと思った。いや。分からない。どうなのだろう。
この物語の主人公の女性は、90代で杖もなく歩ける……という事は、農業従事者ではないのかな。
私の祖母があと数年で百歳になる。祖母の足は畑でひねったまま放置したので、曲がったままだった。60代になったころには曲がったまま固定していて、歩くのも立つのも一苦労な状態だった。農業は過酷なので、まず腰がやられる。主人公の過去はあまり書かれてないけど、専業主婦でそれなりの暮らしをしていた人なのかなと思う。


ただ、夫はパワハラセクハラなんでもありの口の悪いジジイで主人公の名前も呼ばない。主人公も「あいつ」呼ばわりで心の中で悪態をついている。最初、「あいつ」って誰のこと?と思って読んでしまった。
主人公は90代の女性だけど、10代女性のように口が悪いし、突っ込むところは突っ込んで、疑問は疑問で吐き出している。主人公の年齢が全く気にならない。けど、老人ホームという舞台や時代への疑問が90代を表している。

「人権無視も甚だしい」

主人公が老人ホームに入れられた感想である。祖母もいつも「さっさと死にたい」という。祖母に会いに行くと以前は色々話してくれたけど、今はごく稀に会いに行くと「なんで来た?」という感じを隠しもしなくなった。うん。まぁ。普通はそうだよねと思うので、おばあちゃんの態度はいたって普通の人だと思う。仲が悪いとかではなくて、「逢いに行かない人間が稀に会いに言っても嬉しくない」というだけの話。

祖母は足が悪かった。それが生活のネックになって施設がいいだろう……という事になったのだろうけど、母の話を聞いていても「おばあちゃんの意見なんて聞くわけないでしょ。嫌だというに決まってるんだから」と、勝手に施設行きを決めていた。

全てそんな状態。延命治療をするかどうかも祖母に聞かずに「しない」にしてある。聞いたら、ショックを受けるから。……おばあちゃんの頭はしっかりしている。だから、「勝手にすべて決まっている」事の方がショックな気がするけど、こういうの本人に意思の確認をするっていう決まりは一切ないんだな……と思う。高齢になったら、一律「家族が決める」ことになって本人の意志なんて蚊帳の外。そりゃ「死にたい」しかなくなるだろう。
長く生きた結果がそれなんて、私だっていやだ。(私は長生きしないだろうけど)

物語の主人公も「あいつ」を連れて老人ホームを抜け出して、海へと向かう。

三作品の中で、一番リアルでホラーだった。


この「新・豪華ホテル」作者が90代なのがまた、すごい。文章テンポがよすぎて90代でこのテンポで書くのすごいと思う。私はその年齢の半分以下だけど……そのテンポで書けない。そして、その年齢になっても書いている先輩がいるのを見ると、憧れてしまう。いいな。私もそれができたらいいなと思った。




2019年某文学賞
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