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某文学賞の感想。

2025/02/24


第59回北日本文学賞の感想。
そろそろ文学賞の名前を出しちゃう。ただの一読者の感想です。

入賞『月と鱧(はも)』
40代派遣社員女性の日常の話。ぎっくり腰になって治るまで。
すごくテンポがいい。大きな事件もないのにポンポン読めてしまう。小さい出来事の組み合わせだけど、この組み合わせが絶妙すぎる。最初は平凡な女性の日常だなぁと思ったけど、小さい出来事と言葉の組み合わせでぐいぐぐいっと物語が身近になっていく。
魚を二人で買うために、半分にしてもらうようにお店の人に頼むシーンも。お魚コーナーに書いてあったりできるんだろうなーとは思っても、中々、出来ないのよね。頼めてしまうおばちゃんたちのやり取りも楽しかった。
そして、漏らしてないか確認するシーンも……三日間の記憶が飛んでたら確認すると頷いてしまう。まだ漏らしたくない。いや。若くても年をとっても漏らしたくないけどね。
そういう小さい笑いがあちこちにちりばめられているのも楽しかった。主人公が母親を忘れかけていて寂しいという事に気が付いたところに、『知らない誰かとお魚を分け合う』という終わりもガチっとはまっている気がした。最初から最後まで全部計算されつくしていて怖い。

選奨『子供を売る男』
子供を売る男と子供たちの交流の話。
タイトルだけを見ると、女衒の話かと思った。違った。拾って育てた子供を下女や奉公として売るという話で、最初から最後までほのぼのしている。
途中で親が名乗り出たり、子供を欲しがっている夫婦に渡したりもしている。ただ、このままいい話で終わってしまって、なんていうか……オチがしっくりこない。少し過激なタイトルで人を引き付けて、実はいい人でした。最後までいい人ですっていう詐欺に引っかかったような感じ。いや。売り方として、それはありなんだけどさ。モヤっとする。
芝居小屋の女があっさりひきさがっているのも、引っかかる。ここで『「拐かして売り飛ばすのも、攫ってきて軽業わせるのも、同じようなもんじゃないか」』と言われて、最後は『この稼業をやめる』と決断してるけど。そもそもそれ『稼業』として成り立つほど儲かっていたのか?という疑問もある。だって、赤ん坊の頃に捨てられていた子供たちを7・8年育ててる。それ、経費掛かりすぎだし、そもそも儲けにならないから『他の仕事をしている』状態になってたのでは? 考え始めると疑問ばかり。

選奨『ちび丸の背中』
自分の子供時代と出会う話。
タイムリープをして、行方不明になった母親の事を知ろうとするのはワクワクした。虐待された子供だけど、表現は軽くてメインはそこではない。子どもはそれでも『良いほう』に考えるけど、現実はそうでもないという残酷さを描きつつ、最後は未来に繋がっていて、ふんわりとした気持ちにもなった。
母親が『良い人』ではなかったのがいいし、男の子たちもそれがわかっていて囚われてる。
過去を変えたら出会えなくなるから困る……というのは素敵。確かに、過去が変わると、今も変わるから出会えていた人に出会えなくなる。

そして、お祭りの雰囲気が重い物語を軽く持ち上げるているのもいいなぁと思う。
ただ、個人的にはずっしり重い話の方が好みなので軽さには不満もある。


今年は楽しい3作だったなと思う。年々、私の読み方も変わっていってしまうなぁと思う部分もある。年を取ったせい?感想をたくさん書いているせい?どちらだろう。5年前ならこの感想は持てなかったなあと、数年前の感想を読んでても思う。この先も変わっていきそう。


2019年某文学賞
2020年某文学賞
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