編集

「ブラックメール」を読んで

2024/12/11

ブラックメール: 他人に心をあやつられない方法 単行本 – 1998/5/1
スーザン フォワード (著), Susan Forward (原名), 亀井 よし子 (翻訳)

ブラックメール: 他人に心をあやつられない方法

「ブラックメール 著:スーザン・フォワード 訳:亀井よし子」を読んでみた。

ブラックメールという言葉から『電子メール』のことを想像してしまうけど、そうではなくて人間関係に起こる『恐喝』の話だった。個人的には『人間関係のねじれ』だと思う。
「毒になる親」と同じ著者なので、『親子系』の話かなと思ったけど、親子に限らず友人、夫婦、上司などいろんなパターンの話が例えとして載ってる。その例えを所々に入れながら説明が進む。

目次ごとに見ていく。

プロローグ
『エモーショナル・ブラックメール』日本語だと、心理的恐喝。なぜ、本のタイトルを英語タイトルそのままにしたのだろう。日本語の『心理的恐喝』の方がわかりやすいのにと思ってしまった。
受信者と発信者がいることと、新しい選択をすることでその関係を変えることができる。その流れをこの本には書いているという事が書かれてる。


第1部 ブラックメールの発信と受信
第1章 エモーショナル・ブラックメールとは
ブラックメールは大切な人との関係で行われること。その関係は混乱していることが書かれている。
ブラックメールの六つの症状は1.要求 2.抵抗 3.圧力 4.脅し 5.屈服 6.繰り返し……この状態が続くと関係性がどんどんねじれていく。
正しい人間関係の場合、限度(自分のできることの提示)をつけて、選択肢を相手に託す。

『あなたとのあいだに生まれた葛藤をフェアで愛情ある方法で解決したいと心から望んでいれば、その人物は――
*あなたとの葛藤について心を開いて話し合う。
*あなたの気持ちと不安を知ろうとする。
*あなたがなぜ彼の望みに合わせまいとするのか、その理由を知ろうとする。
*あなたとの葛藤の原因になったことがらについて自分の責任を受け入れる。
(略)
もしある人物の第一の目的があなたに勝利することなら、その人物は――
*あなたを支配しようとする。
*あなたの講義や抵抗を無視する。
*自分の性格や動機があなたのそれよりも勝っている、と主張する。
*あなたとその人物とのあいだに生じた問題の責任をまったく引き受けようとしない。
』33-34p

ブラックメールは勝ち負けで相手との関係を考えるときに出てくる……らしいけど、これも無意識レベルの話なので実際に当事者に聞いても「そんなつもりはない」という返事が来ると思う。
そして、この関係が続くと硬直した緊張感ある関係になる。
毒親の本を読んだばかりなので、毒親との関係もこういうものだし、下手すると夫婦間でもそういう『どちらが強いか』という力関係での話しかしてなくてピリピリした家が多いのでは?と思ってしまった。……つい家族関係で考えてしまう。


第2章 ブラックメールの四つの顔
1.罰する人
見分けやすいのが罰する人。「これをしない(もしくは、すると)と、こうしてやる」という罰を言い渡すのがこれ。
2.自分を罰する人
「ダメって言うなら、息を止めるからね」という子供の例えが出ていた。……なにそれ、可愛いと思ってしまった。これは可愛い例えだけど。
「そんな事をしたら具合が悪くなる」という老いた親の言葉なんかがリアルと思ってしまった。
3.悩み苦しむ人
このパターンは複雑で『自分の不幸は相手のせい』という事を「見ればわかるでしょ。わからないの?親不孝者」というような暗黙の言葉で責める。または、相手をに悲しそうな顔を見せるだけという形もある。……めんどくさい人だと思うけど、うちの母親がこのパターンに近い気がする。
4.鼻先に人参をぶら下げる人
これ、ご褒美でつる感じにしておきながら、最終的には渡さないという悪質パターンの事例が載っていて……すごいと思ってしまった。たいてい、ご褒美を出してそれがクリアできたら渡すなのに『相手がクリアできない』課題を与えてるの計算しないと出来ないだろう……と思ってしまった。でも、こういうブラックメールは計算でやるのではなくて、『そういう関係になってしまう(お互いの利益が微妙にマッチしてしまう)』ものらしい。
だから、状況はより複雑なことが多い……。

事例がいくつも出てくるけど、自分もやっていたりやられているな……と思い当たる部分が多すぎて、読みながらあちこちから矢が飛んできてる気分になっている。


第3章 「FOG」があなたの考える力をくもらせる
「FOG」とは「恐怖心」「義務感」「罪悪感」の三つのエモーション(情動)
この三つが思考力を狂わせ、不快感を生じさせるという事が書かれてる。

『親とは、わたしたちが子ども時代に抱いた恐怖を復活させる、たぐいまれなる能力の持ち主なのだ。』81p
親子関係に特化した本ではないけど、たまたま親子の事例が載っていてそこにこの言葉……。能力というより、子供にとって親はそういうものなんだよね。自分が大きくなって親よりも力があっても親を怖がる心は刷り込まれていて中々、反撃は出来ない。
逆に親にとっては子供は絶対に自分を裏切らない反撃してこない心地いい相手なんだなとも思う。

さらに相手を脅すための材料は、一度与えるとそれを何度でも繰り返して使うともある。どちらかが悪いとか、何かが悪いではなくて『関係性を変える努力』が双方にあるかどうかだけど、それが難しい……。関係性を変えるのってそれまでの世界を壊すことに等しいから、ブラックメールは続く。毒親関係もこれと同じ関係性だから、繋がってるなと思った。


第4章 ブラックメール発信者はこんな手を使う
ブラックメール受信者が使う4つの方法についての話。
武器その一 ひねり(スピン)
正しいのは自分(発信者)で、受信者は間違っているとする。スピンとは『訳注――政治的に偏向した情報操作』101pとある。
正しくない情報を相手に与えて信じ込ませる……みたいな意味かな。
武器その二 相手(受信者)を病人扱いする
この場合は「お前(受信者)の頭はおかしい」「鬱病のせいだ」などという事で、正常な判断が出来てないと責める。
武器その三 援軍要請
他の家族や親族または友人を連れ出してきて、問題提起をしようとする当事者(受信者)を責める。または、より高い権威。聖書や専門知識(セラピスト)の助けを借りて、受信者を責め立てる。
武器その四 否定的比較
「どうして、あの子のようにできないの?」と誰かと比較して、「お前は出来てない」と責める。職場などでは他の優秀な人材と比べるということもある。

主にこの四つの方法で、受信者を責める……とあったけど、これどれも『毒親』関連でも見かける手法な気がしてしまった。


第5章 ブラックメール発信者の心のなかはどうなっているのか
ブラックメール発信者はフラストレーションに耐えられない……とあるのだけど、フラストレーションという言葉になじみがなかったので脳内で『ストレス』に変換しながら読んだ。たぶん、意味はそんなに違わないよね。完全日本語で考えるなら『心理的負担』かな。
ストレスが次のような喪失不安へと繋がる。
『*これはうまくいかないだろう。
*欲しいものが絶対に手に入らない。
*他人がわたしの必要としているものを理解してくれているとは思えない。
*わたしには必要なものを手に入れる手段がない。
*必要なものを失えば、それに耐えられるかどうかわからない。
*わたしがみんなのことを気づかっているほど、みんなはわたしのことを気づかってくれていない。
*わたしはいつも大切な人を失う。』129-130
これらは子供の頃のトラウマが原因になることが多い。
けれどこの後に、それとは別の『すべてを与えられた人』の話も載っている。
この場合は、喪失経験が一切なくて、『失くしそうな時にどうしたらいいのか分からなずパニックに陥る』とある。子供時代に適切な喪失や期待通りにいかなかった経験というのは必要だねという話だった。

そして、全てのブラックメール発信者に言えるのは、『ナルシシズム』。自分のことしか頭にないということ。ブラックメールは『自分の要求を通すための手段』なので、どんなに言葉を尽くしても相手の事を考えているわけではない。その為に相手の勝ちすら貶めようとする卑劣なことであると同時に『あなた(受信者)は悪くない』発信者から与えられた歪な認識を改めることが必要になる……と本のなかでは繰り返して書いてある。

でも次の章は『責任は受信者にもあるよ』という話。


第6章 責任はあなたにも
ここは受信者側の責任について書かれてる。これ、受信者側が『子供(未成年)』の場合はキツイし、子供の時から親とそういう関係で大人になっても続いてる……という場合はキツイなと思ってしまった。だってこの場合は『親に対処するためにそれを身に付けるしかなかった』のだから。でも『大人』になったら、自力で変えろという話っぽいけど……それが出来たら苦労しない。

『ブラックメール発信者の圧力に直面したとき、あなたは――
*彼らの要求に屈した自分を耐えず非難する。
*よくフラストレーションを感じて腹を立てる。
*彼らの要求を受け入れなければ罪悪感にとらわれ、自分は悪い人間だと思い込む。
*彼らの要求を受け入れなければ彼らとの関係がだめになると不安になる。
*ほかにも彼らに手を差しのべる人がいるのに、危機に際して彼らが頼りにする唯一の人物になってしまう。
*彼らに対する義務は自分自身に対するそれよりも大きいと思う。』156-157p
一つでも心当たりがあると、ブラックメールの土壌になっている……という恐怖の解説付き。でも、それが当たり前すぎると湧いてきた感情が『罪悪感かどうか』すらわかんないのよね。……悪い意味で馴染んでるというか。罪悪感かはわからないけど、10回に一度ぐらいはザラザラするみたいな。感情の分別が出来ない。

『ブラックメールに屈しやすい人の特徴
1.他人に認めてもらいたいと思う過剰な要求。
2.怒りに対する強烈な不安。
3.他人の人生に過剰な責任を感じる傾向。
4.どんな犠牲を払っても平和が欲しいと思う気持ち。
5.高度の自己不信。』159-160p
一つづつ詳しい解説もついてる。1は承認欲求のことだろうな。2は和平の調停者とも書かれてる。
3は最近、私、これだなと気が付いた。気が付いたので、最近は他人の人生を盗まないように気をつけなくてはと思ってる。

『ブラックメールの発信者の圧力を受けたとき、あなたは――
*謝る。
*合理化する。
*言い争いをする。
*泣く。
*懇願する。
*大切な予定や約束を変更またはキャンセルする。
*圧力に折れて、こんなことはこれが最後だろうと思う。
*要求をのむ。

あなたは――
*はっきりと自分の思いを伝えること
*目の前で起きていることに立ち向かうこと
*限度を設定すること
*ブラックメール発信者に彼らの言動は受け入れられないと知らせること

――をむずかしいと思う。』189p

私、後半の選択肢(行動)があることを知らなかったな……と思ってしまった。毒親とのやり取りはほぼ前半の反応でしか対処した事ないし、他のやり方がわからないという人多そうだけど。

この章の最後にはちゃんと『自分を責めさいなむ方法として利用しない事』という注意書きがある。そういう意味でこの章が書かれたわけではなくて、最後のように『こういう行動を取る手段があるよ』と知らせるための章。

第7章 ブラックメールはあなたにどう影響するか
自分が壊れていくという話が書かれてる。
『「統合性」があるというのはどういうことか、つぎのリストを見ていただきたい。声をだして読んでみてもいいだろう。それぞれの項目のひとつひとつがあなた自身の感覚であるとイメージしてほしい。
*わたしは自分の信じることをはっきりと表明する。
*わたしは人生を不安に左右されない。
*わたしはわたしを傷つけた人と対決する。
*わたしが何者であるかは、他人に決められるのではなく、自分で決める。
*わたしは自分にした約束を守る。
*わたしは自分の肉体的・精神的健康を守る。
*わたしはほかの人々を裏切らない。
*わたしは真実を語る。』195-196p
これらがどんどん削り取られていく。毒親が子供に対してしてるのってこれでは?
この本、『親子関係』について書かれてるわけじゃないけど、親子関係でもこのブラックメールの関係性は起きやすいとも書いてあるので関連はしてる。

そして、ブラックメール発信者に対して、受信者は自己開示をしなくなるという話に続いていた。ありきたりで無難で自分が傷つかない範囲の話だけになる。発信者はそれには気が付かない。毒親も子供は恐怖で従っているだけなのに、「私の頼みは何でも聞いてくれる」と思ってる親がいる。


第2部 理解から行動へ
第8章 行動に入る前に ――心の準備
行動を起こす前にやること……準備だけでも、やる事多すぎるようなと思ってしまった。
最初の一歩は自信をつけること。
1 自分自身と契約する。222pに契約書が書いてある。
『 わたし自身に対する契約
わたし___は、みずからを選択の自由を持つ成人と認め、わたしの対人関係およびわたしの人生からブラックメールを排除するために、積極的に行動することを誓います。その目的を達成するために――
*わたしは自分自身に対して、今後みずから進んで恐怖心、義務感、罪悪感によって自分の決断を左右されないことを約束します。
(略)
*わたしは今回の行動に際して、自分を大切にすることを約束します。
*わたしは、積極的な行動を取ったときには、それがどれほど些細なことであれ、それができた自分を評価します。
署名__ 日付__』222p
すごい。ポジティブな言葉しかない。略しちゃったけど、『失敗は教訓として利用するかぎり、失敗ではない』というのもあるのよね。一歩進んで二歩下がったように見えてもちゃんと分析してやり直せばOKってこと。

2 パワー・ステートメント(ブラックメール発信者が圧力をかけ始めた時に、受信者が浮足立つのを防いでくれる短い言葉)『わたしには耐えられる』
圧に耐えて従うという意味?と一瞬思ってしまったけど、『圧をかけてきても、私は動じない。私の不安や義務感、罪悪感に耐える』という意味。つまり耐えるのは自分の中の感情。

3 セルフ・アファーミング・フレーズ(自分を肯定するフレーズ)
耐えられないと思っている思い込みを逆転させて、自分を肯定するフレーズを作る。例えば「わたしは自分の求めるものを求める。』『断固とした態度を取る』『自分が何を求めてるのかはわかっている』といったようなもの。これを過去形にして「前は……だったが、もうそんなことをしない」というのでもいい。

こういうのスピリチュアルを調べてた時に出てきたような。ポジティブな言葉を使う……みたいなものが。でもこいう下地がまったくないから全然意味が分からなかったのよね。この本、根本の『不安』『義務感』『罪悪感』を説明してからポジティブな言葉を使おうという話になってるからスッと入ってくる。

さらにもう一歩。SOSを発信しよう。
Sはstop止まれ。OはObserve観察せよ。SはStrategize戦略を練ろう。という話に続く。
ステップ1 stopは止まれ。時間が欲しいと発信者に伝える。
『*いますぐには返事ができないわ。少し考える時間が必要ね。
*これは重要なことだから、急いで決めるわけにはいかない。少し考えさせてくれ。
*いますぐに決断するつもりはないわ。
*きみの要求をどう考えればいいのかよくわからない。もう少したってから話し合おう。』228p
相手が要求を突き付けた瞬間にそう言って、距離を取ることが必要とある。ここからすでにレベルが高そう。この一時の『待って』すら通用しないっていうのわかる……。ブラックメールに屈してると待ってもらえなくなる。
そこからこまごまとしたものがある。不快感との対話も面白かった。でも、今はネットの時代なので、『相手の立場になって質問サイトに質問を投げる』というのが私の中ですごくよかった。いろんな返事が来るけど、最後まで実は逆の立場とは明かさずに相手の立場になって回答者さんたちにも答えていく。ただ、ネットの中は病むのでお勧めは出来ない。病んでる時にこれやるのもキツイ。ひとりごとや愚痴を書いて、それをそのまま逆の立場で考えたらどうなのか?という視点で一人芝居して見た方がましかもしれない。

他にも相手の拒絶(時間を欲しいという言葉に、今すぐ答えろ)が長引いて疲れてきたら物理的に距離を取った方がいいともある。トイレに行くでも水を飲みたいでも……同じ空間に居続けるのはよくない。本当に良くない……。


ステップ2 観察せよ
本当は何が起きてるの?
『1 相手は何を求めたのか。
2 要求はどのように出されたのか。たとえば、やさしく持ち出されたのか、脅迫的に、あるいは苛立たしげに持ち出されたのか。あなたの状況に当てはまる言葉で表現しよう。
3 あなたがすぐに同意しないのを知って、ブラックメール発信者は何をしたか。』243p
(数字は丸に数字)

次に要求を突き付けられた時のあなた自身の反応の観察。
1 あなたは何を考えているか。 2 あなたはいまどんな気持ちでいるか 3あなたの発火点は。
考えと気持ち、さらにそれらが起こる時の相手の行動。「ため息をつく。声を荒げる。泣く。だんまり。など」
観察結果はつぎのような言葉から始めると良い。
『*おもしろい話ですよね、……
*気づきはじめたところなんですが、……
*いままでまったく気づかなかったんですが、……
*意識し始めたんですよ、……』249-250p
この言葉、いいなと思う。ツイッターでもよく見かける。自己観察してる人が多いからだろうけど。こういう言葉をつけると、自分の感情に見栄を張らなくていいし、自分の感情や考えから距離があるように思えるから面白い。
自己観察は大切だけど、他者と比べたり、言葉を知らないとどうにもならなかったりすることが多々あるかも。この本はその手助けもしてくれるの良い。

第9章 相手の要求を分析し作戦を練る
相手の要求を分析して、どの要求なら受け入れることができて、何が出来ないかを明白にする。
『*この要求には、何かわたしを不快にさせるものがあるだろうか。あるとしたら、それは何だろう。
*要求のどの部分は受け入れられるが、どの部分は受け入れられないのだろう。
*相手の要求はわたしを傷つけるものだろうか。
*相手の要求はわたし以外の誰かを傷つけるものだろうか。
*相手の要求はわたしの求めることや気持ちを考慮に入れているだろうか。
*相手の要求の何かが、あるいは要求の出され方が、私に恐怖心、義務感、あるいは罪悪感を起こさせているだろうか。起こさせているとしたら、その原因は?
*その要求はわたしにとってどんなよいことをもたらすのだろうか。』252p
これらの質問に答えて、以下の三つのカテゴリーのどれに当てはまるか考える。
1.大した要求ではない。
大したことではなくてもブラックメールの場合は要求の出され方を吟味して、要求の一部を受け入れる代わりに不快に感じる要求の出し方をやめるように伝えることもできる。様子見でも構わない。じっくりと次のために観察を続けるのもあり。
2.要求に重大な問題が含まれている場合――統合性の危機
7章に書いてある統合性の質問を相手の要求に当てはめて答えてみるとわかる。統合性が危険にさらされてる時は相手の要求を受け入れてはいけない。
3.要求が人生の重大事に関わる場合
結婚や恋愛関係の決断、親や親せきなどとの関係性、職場に留まるかどうか、大金を投資するかどうかなど人生の重大事の決断は慎重になった方がいい。時間をたっぷりととること。
ただし
『*相手が肉体的虐待を加える、あるいは加えると脅す場合
*相手がアルコール、薬物、ギャンブル、借金への病的な依存癖の持ち主で、問題の認識や治療を拒む場合
*相手が違法な活動にかかわっている場合
には、時間稼ぎなどという悠長なことはしていられない。すぐにでも決断して行動にでなければならない。』269p

相手の要求を受け入れたとしても妥協や屈服ではなく「戦略」
職場の上司などとの関係の場合は要求を受け入れないことが難しいことがある。そんなときのための戦略
『戦略としての抵抗パターンのガイドラインはつぎのとおり――
1 あなたの健康に害があることはいっさい我慢しない。(略)
2 仕事についての考え方を変える。(略)
3 タイムテーブルをつくり、計画を立てる。(略)
4 現状を改善するために小さな行動を決断する(略)』282-283p
……要は転職をお勧めということなのだけど、転職するにも職場の関係性が悪いままよりは少しでも改善できる点があるなら改善してみるのも手。


第10章 決断を実行に移すための戦術
実行のための具体的な話し合いに使える言葉が書いてある。ただし、相手が危険な人物の場合は話し合いをせずにすぐに逃げることという注意書きあり。危険な人との話し合いは推奨してない。

戦術1 自己防衛的ではないコミュニケーション
ブラックメール発信者がブラックメールを発している(感情的な)時に自分の説明をしてはいけない。
『*あなたが怒っているのは残念だわ。
*きみがどうしてそういう見方をするかは理解できるよ。
*それはおもしろいわね。
*ほんと?
*怒鳴っても(脅しても、引きこもりをしても、泣いてみせても)、もう効かないし、それじゃ何も解決しない。
*あなたの気持ちがもっと穏やかな時に話し合いましょ。
そして、一番自己防衛的でない反応は――
*まったくきみのいうとおりだ(たとえあなた自身は本気でそう思っていなくても。)』291-292p
「あなたのいうとおり」というのは何かで読んだことがあるけど、中々、そんな事言えないよね。責められている時にそこまで冷静になれるのかなりの上級者。

相手の反応を予測して備える
『1 相手が悲観的な結末を予言したり、脅したりする場合
相手が――
*きみは二度ときみの子どもたちには会えないだろう
*おまえはもうわたしの子どもではない。
*わたしはあなたがいなきゃやっていけない
などといったら、あなたは――
*それはあなたが選んだことでしょ
*あなたがそんなことをしないことを願ってるけど、わたしはもう決めたの
*脅しはもう効かない』301-303p一部抜粋

この間、車で送ってほしいって言われて断った。「事故るから嫌だ」と言ったら「それはお前の責任だろ」と言われた……頼んでる側がどっちだかわかってないんだろうな。事故ったら私の責任だから、運転できないんだよという話なんだけど。なぜ、その言葉で『送ってもらえる』と思ったのか謎過ぎた。
でも、こういうコミュニケーションの話の断片だけ切り取って、現実に移植すると『謎現象』が起きるんだろうなと思う。会話は流れで『目的に合った言葉』というのがあるので、これらの言葉も『目的に合わせる』事が出来ないなら使わない方がいいんだろうなと思う。

『2 相手が悪口、レッテル張り、否定的判断に頼る場合
相手が――
*あなたは自分のことしか考えていない。私の気持ちなど全く考えてないわ
*そんなばかな話、初めて聞いたよ
*どうしてそこまで不誠実でいられるんだい?
などといったら、あなたは――
*あなたにはあなたの意見を口にする権利があるわ
*たしかに、きみにはそう見えるだろうな
*残念だけど、あなたは動揺してるわ』303-304p一部抜粋

『3 相手が「なぜ」「どうして」と激しい迫り方をする場合
*なぜきみはおれの人生をめちゃめちゃにしようとするのだ
*どうしてあなたはそんなに頑固(意固地、身勝手)なの
*これくらいのことでどうしてそんなに大騒ぎするのだ
といったら、あなたは――
*この問題に悪者はいないわ。あなたとわたしでは求めることが違うだけよ
*この件についてあなたが喜ばないだろうことはわかるわ。でも、そうでなければいけないのよ
*きみとぼくとではものの見方が違うんだ』305-306p一部抜粋

この他にも『だんまり』のパターンには最初の一歩はこちらから、説明してほしいと懇願はしない。話題を変えるのを許してはいけない。一部の事は成り行きに任せるなどいろんなアドバイスがある。

戦術2 ブラックメール発信者を見方に変える
『次のような質問を相手にぶつけてみよう。
*これがどうしてそこまであなたにとって重要なことなのか、それを理解できるように説明してもらえないかしら?
*この問題を解決するためにぼくたちに何ができるのか、いくつかの提案をしてくれないか?
*ぼくたちの関係を好転させるために一緒にできることがあるかどうか、それを見つけるための手助けをしてくれないかな?
*あなたがなぜそんなに怒っているのか(動揺しているのか)、それを理解するためにちからを貸してもらえないかしら?
(略)
つぎのような言い方で「奇跡の道具」を持ち出してみよう――
*もし……なら、どうだろうねえ。
*……の方法をみつけるために力を貸してくれないかなあ。
*どうすればわたしたちこれをもっとうまくできる(これを有効に使える)かしら。

戦術3 等価交換
こちらの要求と相手の要求の一部を交換して、お互いに約束すること。

戦術4 ユーモアを利用する
基本的に良好な人間関係ではユーモアを利用する。陰鬱な気分を吹き飛ばすには役立つ。

これらのやり方を駆使してブラックメールとの関係を変えると書いてあるけど、すぐには変わらないと何度も書かれてる。これは受信者も発信者もで、一進一退になることが多い。そのつど話し合い、自分の要求と相手の要求を確認し合って進むしかない。縁を切らないと決めた場合は。
『もうブラックメールは使わない』と約束しても、再びブラックメールを使う発信者もいる。その都度指摘して、新しい伝え方を学ぶことも必要。

ということが書いてあった。具体的過ぎて、盛沢山。お腹いっぱい。

第11章 総仕上げ ――あなたの「ホット・ボタン」を解除しよう
ホットボタン(恐怖・義務感・罪悪感の元)の解除のしかた。
この章も肉体的・心理的・性的後遺症などに苦しんでいる状態や薬物乱用などがある場合は、そちらを優先させてと書いてある。安易に一人で行うには危険という注意書きあり。

『わたしが相手の圧力に屈するのは――
1 彼らの非難が怖いから
2 彼らの怒りが怖いから
3 変化が怖いから(もう彼らに好いて/愛してもらえず、捨てられることさえあるかもしれない)
4 彼らに借りがあるから
5 彼らがいままでいろいろなことをしてくれたので、「ノー」とはいえないから
6 屈するのがわたしの義務だから
7 屈しなければ罪悪感が大きくなりすぎるから
8 屈しなければ自分は身勝手(薄情、ケチ、卑しい)だと感じるから
9 屈しなければ、わたしは善良な人間ではなくなるから
 最初の三つは恐怖心(F)に、つぎの三つは義務感(O)に、そして最後の三つは罪悪感(G)に関係があることがわかるだろう。』336-337p

恐怖心という「ホットボタン」の解除
1 非難に対する恐怖
相手の非難の言葉を打ち消して、自分のいいところを考える。
2 怒りに対する恐怖
 ・あなたは何を恐れているのか。
 ・起こりうる最悪のことは何か。
 ・あなたは何が起こりうると想像しているのか。
これらを明確にする。
もし、相手が怒り出したら、現場から自分を遠ざけると同時に「やめて」「黙れ」「静かにして」と強い、はっきりした声で相手に伝える。
ここに『ブラックメール発信者になってみる』というセッションも書いてある。正確にはブラックメールを発している相手の言葉をそのまま言ってみる感じかな。そこで得られるものがあるらしい。

3 変化に対する恐怖(世間に好いてもらえないかもしれないという恐怖)
4 変化に対する恐怖(捨てられることに対する恐怖)
ネガティブ思考をやめるために、一日五分だけネガティブになって、他の時間はネガティブを近づけない……というものも……難しそう。

義務感という「ホット・ボタン」の解除
義務だと思ってたことを書きだして『そんなことどこに書いてある?』と加える。どこにも書いてない物を勝手に義務だと感じている。

罪悪感という「ホット・ボタン」の解除
『*あなたのしたこと、あるいはしたいことは悪意のあることか。
*あなたのしたこと、あるいはしたいことは残酷なことか。
*あなたのしたこと、あるいはしたいことは虐待的なことか。
*あなたのしたこと、あるいはしたいことは相手を侮辱する、見くびる、あるいは相手の品位を傷つけることか。
*あなたのしたこと、あるいはしたいことは相手の幸せを本当の意味でそこなうことか。』361p
これらの質問を考えて、そうでないなら罪悪感は必要ない。

また、発信者のいう受信者へのレッテルを書き並べて
『これは相手の意見であって、事実ではない!』と付け加える。

他にも気になった言葉を書き貯めて箱に入れて、相手を送り先として宛名を書いてみる。書いた後は燃やすなり捨てるなりするというのもあった。

自分とブラックメール発信者を元にして童話を書いてみるというのもある。これは、ラストはハッピーエンドとはいかなくても気持ちのいい終わり方にすることという注意書きあり。面白そう。

エピローグ
あっさりしているけど本書を使って『本来の自分に戻ってほしい』というメッセージで終わってた。


ブラックメールの中でしか過ごしてない人にはかなりハードルが高い上に、日本のメンタルサポートは絶望的にない……のでは?と思ってる。あったとして、情報を得るのもハードルが高い。さらに地方ではという地域差もありそうだけど。
でも、読んでるだけでも楽しかったし、『自分もこのブラックメールは使わないように気を付けよう』と思った。これ、怖いのが浅い関係でもうっかりやりそうなのよね。人との距離感が掴めないから、こっちがブラックメールと思ってなくても、向こうからしたら脅迫っぽい感じにならないように『通常のコミュニケーション』を覚えたい。


ごちそうさまでした。

『ブラックメール』