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「ソロモンの歌」を読んで

2025/03/14

ソロモンの歌 単行本 – 1994/9/1 トニ・モリスン (著), 金田 真澄 (著), Toni Morrison (著)
ソロモンの歌 トニ・モリスン・コレクション

「ソロモンの歌 作:トニ・モリスン 訳:金田眞澄」を読んでみた。

トニ・モリスン、2冊目。「スーラ」よりも読みやすかった。この本も『祖父母』の時代の話も絡む物語。こういう祖先を遡るのは黒人ぽいなと思うのは、『ルーツ(感想なし・再読予定)』も数世代分の物語だったせいかもしれない。

それが『黒人(アフリカ系)』の文化や価値観になるのかはわからないけど。露骨な『これ』といった明確な文化や価値観が書いてない代わりにこういう、薄っすらとした価値観や文化がじわりとにじみ出てる感じが好き。

男が飛び下りたシーンから話が始まる。
その時に生まれた子供が『ミルクマン』と呼ばれて、基本的にこの『ミルクマン』が中心に物語が進む。男視点の男たちの物語だけど、男臭さは小さい。そして、男には女たちが常にまとわりついてくる。『男らしさ』との葛藤と、成長の物語とでもいうのだろうか。

『スーラ』は女同士の友情とすれ違いの物語だったけど、『ソロモンの歌』は男であるが故の不自由さと傲慢さと身勝手さをこれでもかと書いてある。もちろん、黒人差別もあちこちに書かれてる。ただ、ミルクマンは黒人の中でも裕福な家の子どもなので黒人差別が見えづらい場所にいる。これが友人とのすれ違いを産む。そして、最後は友人が命を狙ってくる。ミルクマンは最後に友人に向かって飛ぶ。

後半はミルクマンが金塊を求めて先祖を探す旅になっていて、興味深かった。そして、先祖は飛べたという話を知る。そして、男たちが何を置き去りにしたのかをミルクマンは知る。
ミルクマン自身も無意識の差別意識を持ち、無意識に女性たちを無碍に扱う。そして、最後はその報いを受けるのもすごいなと思った。

気になった部分。

『メイコンにとってそれは、自分は本当に成功者なのだということを、自分自身に納得させる方法であった。ルースにとってはそれほど野心的な儀式ではなかったが、それでもやはり、自分の家族を見せびらかす方法ではあった。』38p
メイコンはミルクマンの父親、ルースは母親。日曜のドライブに家族みんなで行くのは町の人に自分たちを見せつけるためという説明。ミルクマンにとってはこれが当たり前でつまらない物になっているけど、親たちにとってはそうではない。

『パパは字が読めなかったんだ。』61p
父親が自分の父親の事を語るシーン。文字が読めなかったから、教えてあげようとしたけれど、父親(ミルクマンの祖父・黒人)には難しくて一文字も覚えなかったという。だから、名前の書類も適当に書かれて『メイコン・テッド(死)』という名前になったという。読めないから名前が変わるというのはどこの国でも一緒なんだなぁと思ってしまった。私の祖母も『し』の文字で登録されてしまったけど、祖母の親たちは『ひ』と伝えたつもりだったらしい。だから、歳を取ってから祖母は日常では自分の名前に自分で漢字を当てはめて使ってた。

『父親が壁伝いに這いながら、屈辱と、怒りと、いまいましいが息子を自慢に思う気持ちの、矛盾した感情でいっぱいになっていたのとちょうど同じように、息子のほうも彼なりに、矛盾した気持ち気持を味わっていた。』76p
初めてミルクマンが父親を殴ったシーンのお互いの気持ち。……いや。なんか、気持ち悪い。これ、『母親が父親に殴られていたから、ミルクマンは父親を殴った』のだけど、母親の気持ちは無視されている。

『「そうね、腕力の強さも強さだわ。でも私が言っているのは、女は別の面で弱いってことよ」
「例をあげてみて。ぼくのためにいくつか例をあげて欲しいな。あんたはどこが弱いの?」
「わたしのことを言ってるんじゃないわ。ほかの女の人のことよ」
「あんたはちっとも弱いところはないの?」
「今のところ気付いてないわ」』107p
ミルクマンのいとこのヘイガーとの会話。最後はヘイガーがミルクマンにふられて死んでしまうのを考えると、すごい伏線だなと思う。

『ねぇ。言っておくれ。わたしが膝に抱いて、あなたにどんな悪いことをしたというの?』138p
父親が『母親に対する冷たい態度の理由』を告白した後は、母親が『父親が自分にどんな冷たい態度を取っていたか』を告白する。ミルクマンはみんながそう呼ぶだけで、名前ではない。その理由は『母乳を飲むような年齢を過ぎても、母親がお乳を吸わせていたから』ということを、ミルクマン自身が知ってしまった後に母親が言う言葉が上のセリフ。
母親は「自分は悪くない」って言ってほしいんだろうけど、悪いことも理解してる。だから、『子供(ミルクマン)にだけは許してほしい』と思うんだろうな。でも、それもまた親の傲慢さであり、ミルクマン自身は母は悪いことをしていない……でも…と思い悩む。

『男たちは腕のない女、片足しかない女、せむしや、盲目の女、酔っぱらい女、剃刀を持った女、小人、小さな子供、囚人、少年、羊、犬、山羊、レバー、おたがい同士、またある種の植物とさえ性交するくせに、パイロットとは、へそのない女とは、性交するのを恐れるということをパイロットは知った。』162p
すごくマニアックなものまで書かれてるなぁと思ってしまった。そして、『せむし』……。ハンチバックを読んでなかったらわからなかった言葉かも。さらりと混ざりすぎていてこれだけだと意味が掴めそうにない。

『俺は何かをしなくちゃいけなかったんだ。そして、残っているただ一つの行動は、借りを返すことだ。釣り合いを保たせることだ。どんな男でも女でも、いやどんな子供でも、その子孫がだめになる前に、五代から七代は続くんだ。だから、人が一人殺されるたびに、五代から七代の人間が殺されたことになる。』169p
ミルクマンの友人ギターが『黒人のための殺人をする七曜日』の一人だと告白する。その殺人の理由……殺されるから、殺さなきゃいけない。この理屈で言うと殺し合いが続くだけなので意味がないけど、そう思わされるほどには黒人たちは追い詰められていた。黒人差別は調べた記憶があるけど、どの本だったか忘れてしまった。
狂信』だったかな。時代的には狂信の辺りと被りそうな感じだけど。どうなのだろう。

『俺は人形は欲しくないんだ。俺は女が欲しいんだ。父親をこわがったりはしない、一人前の女が。きっとあんたは、一人前の女にはなりたくないんだな』211p
ミルクマンの姉が恋人に対して父親が怖いとの言葉に返した言葉。
これはちょっとズルいなぁとも思う。姉もミルクマン同様に箱入り娘なので『いきなり親に逆らう(肉体労働者の男性と付き合う)』は出来ない。でも、最後には父親に逆らって恋人と暮らし始める。ミルクマンの恋愛は悲哀で終わるけど、姉の方はうまくいく感じで書かれてる。

『どこで手に入れたか教えてあげようか。股の間にぶらさがっている、そのソーセージからよ。(略)あなたは一度パパをなぐったから、わたしたちみんな、あなたがママを護ったと信じてる、と思ってるんでしょ。ママの味方だって。嘘だわ、そんなこと。あなたはパパの後釜に坐ろうとしてたんだわ。』233p
ミルクマンの姉がミルクマンに不満をぶつけるシーン。これ、『姉』というのが丁度いい立場なんだろうなあと思う。これが『妹』だと言えなくなるし、ミルクマンはこういうことを知ることもないまま終わると思うけど、姉だから……それも12も年上の姉だから言えるんだよね。

『どうやらミルクマンは自分はただ愛される――ただし遠くから――ことと、欲しいものを与えられることにしか値しないと思っているらしかった。(略)もしかしたらミルクマンが本当に言っているのはただ、「ぼくはあなたの苦痛には責任がない。あなたの幸福はぼくと分かち合いましょう。でも不幸はごめんです」ということかもしれなかった。』298p
ミルクマンが子供から大人に成長していくシーン。この明文化がすごいなと思う。でも、この成長を30代のおっさんがやってると思おうと……ちょっと遅いんじゃない?とも。いや。うーん。遅くても成長できるならいいのか?


ミルクマンとヘイガーはいとこ同士でもあるので、時々『タブー(禁忌)』の意味なのかなという文章が出てくる。でも、明確にタブーにはなってない。いとこ同士は近親婚の感覚はあるけど、『子供が出来ない限り見逃す』みたいなものなのかな……。タブー視されてるけど、誰も明言してないのはそういう価値観なのかな。

濃厚すぎる物語、お腹一杯。
南部と北部の感覚の違いと、裕福層と貧困層の違いと、時代と、インディアンと黒人の違い(または同じ部分)。いろんなものが盛りだくさんで読みごたえがあり過ぎた。

さて、またトニ・モリスンを読む。


『ソロモンの歌』