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「ヴォイス」を読んで

2024/03/10

ヴォイス (西のはての年代記 2) 単行本 –
2007/8/22 アーシュラ・K. ル=グウィン (著), 谷垣 暁美 (翻訳)

ヴォイス (西のはての年代記 2)

「ヴォイス 西のはての年代記Ⅱ 著:ル・グウィン 訳:谷垣暁美」を読んで

ギフト」の次の物語「ヴォイス」を読んでみた。物語は続いているわけではないので、単独でも読める。でも、「ギフト」の主人公のオレックと妻のグライも出てくるので、「ギフト」を読んでいれば少しだけキャラに近親感が湧く。

「ギフト」と同じく世界観が最高で楽しかった。

けど、所々文章が読み辛くてつまづいた。一文の中に同じ単語が2回出てくるのは、ちょっとな……と思った。これは、翻訳のせいなのかもしれないけど、もう少しすっきりした文章にならなかったのだろうか。一部文章は気になったけど、全体としては物語最高。面白い。

「ギフト」は西のはての北の方『高地』の物語だったけど、「ヴォイス」は南の『アンサル』の物語。
地図がちゃんとついているので、国名が出てきても場所が分かるのがいい。砂漠や丘陵、山や海峡、半島など、設定が細かいです。(異)世界地図作るのも楽しいし、見るのも楽しい。ワクワク。

『ギフト』は閉鎖的で貧しい高地の物語だったけど、『ヴォイス』は侵略された都市の物語。
あらすじ:
オルド人に侵略された都市アンサル。オルド人兵士との間に生まれたメマーは、カルヴァマンドに住んでいる。母は死に、道の長であるサルター・ガルヴァに文字を習って本を読めるメマー。しかし、オルド人に侵略されたアンサルでは文字を読む事はおろか本も『魔物を呼ぶ』として忌み嫌われ破棄されていた。そのためメマーは本を読んでいることを秘密にしている。
ある年、語り人オレックとグライがアンサルにやってくる。メマーは二人を館に招き一緒に暮らすことになる。
オレックの名声はアンサルにも広がり、市民たちはオレックの語りを歓迎した。
やがてアンサル解放の機運が高まりオルド人の王のイオラスが死んだという。次の王には息子のイドールが就くというが、イオラスの妻ティリオからそれは嘘でイオラスは生きているという報告が道の長にもたらされる。
オレックはイオラスを助け出し、アンサル市民たちを落ち着かせる。しかし、アスダーから軍が来るという噂で再び市民の感情が高ぶる。メマーは道の長からイオラスへの伝言を託され、それを伝える。イオラスと道の長の密談でアンサルの解放が約束され、アンサルは以前のような活気を取り戻した街に戻っていく。


端折りすぎて、メマーが主人公ということが伝わらない文章になってる。だって、物事としては『アンサルの都市が解放される』という一点しかない気がする。
メマーの視点でアンサルの解放が語られるけど、メマーはオルド人を憎んでいるので視点が偏っている。途中で仲良く……顔見知りになったオルドの見習い兵『シメ』という少年がいるけど、辛辣で嫌いだという視点で書かれている。けど、最後にはシメが気になるくらいの関係にはなっていて、この変化は面白いと思う。

他にもメマーは『ガルヴァ』の家の娘で、お告げの『読み手』としての力を持っている。「ギフト」では散々「ギフト(その家だけに伝わる力)」と書かれていたけど、それと同じような意味合いで「お告げの力」が語られる。他にもアンサルの有力者である四家はそのような力を持っていたとも。
そして、お告げの力も加わってアンサルの解放に繋がるけど、『お告げ』ははっきりとしたものではないので……読んでいても、上手く読み取れない。

そしてこの本も「ギフト」と同じく、民話・神話・物語が挟まれているけど、オレックが語るという形で書かれているので、物語が中断されない。他にも詩の一節をキャラが語り、それが上手く物語に合致している。
『ヴォイス』のタイトル通り、『声』が人々を変えていくのも素敵だ。それに意味がなくても、後から人々(アンサル市民)が意味を加えていくという変化も面白いと思う。

他にも『マンド』は館という意味だけど、高地では「マント」という言葉で方言と書かれているのも面白かった。「ギフト」では『マント』の意味が出てこなかったけど、一族の名前の後についていて文章から『領地』のような意味かと思っていた。それがちゃんと『館』という意味が書かれているし、それが『方言(アンサルから見たら)』になるのもいい。
「ギフト」では高地が舞台なので『低地』から来た人が『なまりがある』となっていた。こういう文化がちゃんと書かれているの好き。

他にも侵略されるという事や、文化が消えるという事。侵略者が憎いあまりに、侵略者の事を知りたくもないと思う事や、侵略者側も侵略している相手の事を知ろうとしない事。第三者であるオレックとグライはまた別の視点を持っている事も面白かった。

物語の大きな流れは『都市の解放』しかないけど、小さいシーンにいろんなものが詰め込まれていて全部好き。

「ギフト」でオレックの母親がメルという名前になっていたけど、オレックとグライの子どももメルという名前という事が書かれていて、いろいろ考えてしまった。オレックとグライの子どもは六か月で亡くなっている。設定が細かい。分かる人だけわかるみたいなの他にもありそうな気がする。

これもヤングアダルト向け作品。中高生にどうぞ。でも、本を読まない子にいきなりこれを勧めたりはしない。ページが多すぎる+物語が動かないので、『本をそれなりに読む人へ』かなと思う。


『ヴォイス』