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絵本「おとうさんのちず」を読んで

2024/03/10

おとうさんのちず – 2009/5/1
ユリ シュルヴィッツ (著), Uri Shulevitz (原名), さくま ゆみこ (翻訳)

おとうさんのちず

絵本「おとうさんのちず 作:ユリ・シュルヴィッツ 訳:さくま ゆみこ」を読んでみた。

絵は可愛い。異国にジャンプするような表紙。
でも、ページをめくると、『戦争でいのちからがら逃げ出した』という重い一文が。

逃げた先では他の夫婦と同じ家で、土の上に眠るという過酷な日々。食料を得ることもままならず、おもちゃも本もない。

表紙の絵からはこんな話とは思わなかった。

『ある日、おとうさんがパンではなく、地図を買ってきた』
おかあさんは黙り込み、僕は怒る。

なけなしのお金が食べ物ではなくて地図になってしまう……なんて、怒るよねと頷いてしまった。

次の日におとうさんは壁に地図を飾る。
そこから話が大きく飛ぶ。僕はその地図を見ながらいろんな国を想像して飛び回る。
表紙の絵はこれだった……と思った。戦争が世界旅行に繋がった。

地図を書き写したり、都市の名前を繋げて読むと呪文みたいだったり……楽しい。

僕はお父さんを許して、正しかったと思う。終わりもいい。
おとうさん、すごい。パンを地図に変えたことで、想像力が飛び跳ねてまずしさもひもじさも忘れるのだから。



ただ、これ……子供次第だし、現実には『パン』の方がいいよね。おかあさんとしても……とも思う。
想像の翼か現実かみたいなのは『結果として生き延びられたかどうか』みたいなものも関係してきそうで、現実的に考えると一概に『いい話』でもない。この場合は、『絵本』になっていい話になってるけど。

ラスト一ページは作者の生い立ちと、この物語が現実にあった事という事が書かれている。生きててよかった。死んでいたら、作品としても残っていない。

現実の話を基にしてあるという事で、ますます複雑な気持ちにもなる。


でも、子どもの視線なら『何だか分からないけど、面白い』で読むのがいいのだろうなとは思うし、『想像の翼』は捨てない方がいいというのも分かる。
大人になるってメンドクサイ……。私が子どもなら、地図だけでこんなことができるなんてすごいと思って、ラスト一ページは読まない。たぶん、そうするのがいい。


本文の文章はひらがなだけで書かれていて、文字数も少ないので低学年でも読める絵本。
戦争シーンの絵も酷い様子ではないので小さな子供に与えても安心の絵本だと思う。

『おとうさんのちず』