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「かがみの孤城」を読んで

2024/03/08

かがみの孤城 単行本 – 2017/5/11辻村 深月 (著)

かがみの孤城

「かがみの孤城」を読んでみた。

「音楽の在りて」の余韻が強くて、欲しいのはこれではない。と思ってしまった。
未だに頭が以前読んだ作品から抜け出せていない。侵されたままです。


※ネタバレします※


『7人の中学生が、かがみの中のお城に引き込まれる話』


案内人はウサギではなくて、オオカミ面の少女という点からすでにワクワクした。主人公の『こころ』が逃げ出すのも面白い。でも、好奇心には負けてまた鏡に入っていくのも、子供らしくていい。

中学生という微妙な年齢を上手く扱っている。現実に気が付き始めて、未来に悲観的になるお年頃。周囲と自分の差も理解しているけど、それをどう扱っていいのかもよくわかってない。でも、それにキュンとはしない。大人も『わからない』時がある。だから、中学生たちの気持ちは分かるけど、懐かしいとか微笑ましいとかそういうのではない。


お城の中では『鍵探し』のミッションが与えられている。けど、鍵の話はあまり出てこない。みんながそれぞれ、お城で好きな事をして、時々衝突したりすれ違ったりという事が起こる。

青春ものなのかな……と思い始めた。『かがみの中のお城』というファンタジーな舞台なのに、やってることは『青春』。

一点だけ、とある男の子が女の子全員をそれぞれ好きになるというのには引いた。

『みんな、僕がイケメンじゃないから、それをからかっていいと思っている』と言うようなことを男の子が言うけど……イケメンだろうと、そうでなかろうと「相手が拒否している」事をしてくるのはアウト。
この場合は、思春期あるあるの「憧れ」を「好き」だと変換してるだけなのだろうけど、距離のつめ方や関わり方に問題あったのは男の子のほうでは? 質問するのは自由だし、近くに座りたいと思うのも自由だけど、近づきたくない答えたくない女の子の意見を尊重できていない。その点について誰も指摘しないのも気持ち悪い。


本の半分あたりで、6人の不登校の中学校が同じ(一人は行く予定だっただけで、別の学校に行っている)だと分かって、『みんなで学校に行こう』という話になり、会いに行く。
だけど『会えない』と分かる。


そういう話か。と思ってしまった。会えなかった時点で、それがなぜかが分かってしまって一気につまらなくなってしまった。この後で会えなかった理由を『パラレルワールド』という言葉で解説キャラが出てくるけど、中学生の想像力だとそうなるのかと思いながら読んでしまった。


年を取るって悲しいな。これだけヒントがあると、拾えてしまう。そして、これは私が年を取ってしまってるからわかってしまっただけで、二十歳前後だったらもう少し楽しく読めたのだろうなと思ってしまう。


後半は答え合わせの気分で読んでしまった。

会えなかったのは、『7人の年代が違う』から。
物語は『7匹の子ヤギ』……これは最初で思ったけど、物語を読み続けるうちに忘れてしまった。7人ならば7匹の子ヤギ。鍵のありかもさいごまで探さないのかと思った。


でも、『年代が違う』と分かった時点で、『同じ中学の制服だから、みんなが同じ学校だと分かった』という事が奇跡だなと思ってしまった。
30年近く差があると、制服も変わると思う。これはスルーした方がいい点なのか、たまたま『変わらなかった』という設定なのかと考えてしまった。
他にも匂い。年代が古い子は『古い家の匂い』がするだろうし、新しい子は『洗剤の匂い』がすると思う。今、小学生の子たちの近くにいると本当に『洗濯用洗剤もしくは柔軟剤』の匂いがキツイと思ってしまう。うちは『粉洗剤』を使っていて洗剤の匂いがないから、尚更、そう思ってしまうのだけど。
こういう『時代の匂い』みたいなものはあるような気がする……でもファンタジーなのでそこは突っ込むのは野暮というものだろう。


言葉やゲーム機、テレホンカードなど細部の変化は書かれていたけど、一番大きいのは『価値観の変化』のような気がする。

でもこのお城に集まったキャラは、みんな『価値観』はそれほど変わってない。
女は食堂に集まってお茶をして、男はゲームをする。という典型的な男女別の価値観が広がっている。

つまり日本は30年あっても『価値観の移行は一切していない』というわけで。
未来の2027年の男の子も、食べるのが好きなら自分で何か作って持ってくるキャラでもいいわけで。一番古いキャラがそれを見て『男が料理なんて』と言い出すとか……そんなシーンはない。料理は女がするし、切り分けも女がしている。吐きそう。

さらには、親に襲われた女の子が実は大人になって、他の子たちを救う立場になる。これが一番のファンタジーだなと思う。
ファンタジーは好きだけど、そういうのは好きではない。ここは『暴力』だけでいいのになぜ『性暴力』を匂わせたのだろう。気持ち悪い。


ついでに言えば、不登校も昔はただの『不良』扱いで「登校拒否」と言われてきた。「不登校」で学校の在り方に問題があるのではと言われてきたのは最近の事。一番未来の2027年の子は『学校以外の場所での学びにアクセスできる』くらいになっていたらいいのにそういう話ではない事は、不登校の子どもたちに『社会は変わっていない。もしくは遅々としていて30年での変化は期待できない』と教えているようなものなのでは。

これを楽しめるのは学校に馴染めている子どもたちだけ。
学校に不満がある。または、不登校である子たちにとっては、『社会はこんなにも何も変わらない』というだけの絶望の物語にしか読めないような気がする。
そして実際、「昔よりはマシ」程度の支援しかない。

さらに突っ込むなら2027年の世界なら中学生でもインターネットを平気で繋いでそうだけど。なぜあの子は「ネットでやり取りしよう」と言い出さないのだろう。親が制限をかけていても、子どもたちは抜け道を探す。正直、これだけ価値観も文化も変わってしまった世界で、「お互いの世代差に気が付かない」は無理。

主人公が『同級生たちが家にきて、窓を叩いて、大声で何かを言う』という被害に遭ってるけど、これも住居侵入で警察行き。教師がそれに対応しないのも、問題に出来ると思うんだけど……でもこれ、時代設定いつだっけ?主人公の時代設定忘れてしまった。その時代だったら、無理? 警察介入できることを『いじめ』に矮小化してるのも気になる。


その辺りも完全スルーしての『ファンタジー』という作品なのだなとは分かるけど。

一気に冷めてしまった。

現実はこんなにうまく行かない……と物語に書いてあったのに、ラストはうまく行きすぎだろと思ってしまった。設定は凝っている。オオカミ様の正体も、7人が呼ばれた理由も、最後でうまくまとまっている。

でも、私には楽しめない本でした。おやすみなさい。

『かがみの孤城』