彼岸花が咲く島 ハードカバー – 2021/6/25 李 琴峰 (著)
「彼岸花が咲く島 作:李琴峰」を読んでみた。
世界観が好きなら『新世界より 作:貴志祐介』も似たジャンルだなと思う。言語の融合の物語を読みたいなら、『地球にちりばめられて 作:多和田葉子』がおススメ。
どちらも私は合わなかったけど、この2作品を思い出した。もちろん「彼岸花~」も合わない。
彼岸花が咲く島にたどり着いた少女は記憶を失っていた。ノロが島民を守るその島は、それまで少女が知っていた世界とはまるで違う。言葉も違っているが、『女語』と言われる言葉と少女の使う『ひのもとことば』とは似ていて……。
ファンタジー感満載で世界観も独特なのだけど、なぜか読んでいて気持ち悪くなってしまった。
これが完全ファンタジーで実在するものを元に少し変えた『ひのもとことば』みたいなものだったらいいのだけど、『チュウゴク』『タイワン』など実在するものが出てくる。という事はこの島のモデルは沖縄(与那国島がモデルらしい)ということがわかる。
しかも最後の辺りの『美しい日本』という単語が入り込んでくる。これだけファンタジーで固めたくせに、最後の方はがっつり政治思想かよと突っ込みたくなった。
政治思想を絡めるなとは思わないけど、この使い方はない。ファンタジーに浸れないまま読み進めて、『美しい日本』で冷めてしまった。
日本が嫌いなのね。読んでてイライラするのは、そういう部分。日本・中国(現在の国というシステム?)を侮辱したいという感情が透けて見えるし、これが芥川賞を取った?日本が侮辱されてるのに?としか、思えないかった。いや。侮辱ではなくて『批判的な作品』ということらしい。個人的にはそうは思えない。
島の歴史は、日本で外人が迫害されて、そこから逃げてきた人たちが島にたどり着いた。そこで、島の人たちを殺して島を奪うと、次は台湾が中国に攻め込まれてそこから逃げてきた人たちも島に逃げ込んできた。島の人たちは台湾の人たちも殺したが、戦続きが嫌になり、すみ分けて島で一緒に暮らすことにした。と、同時に島の歴史と言葉を女たちに託して、男はその立場から降りた。女語も歴史も男には教えない決まりになった。
というもの。
さらに島では、婚姻はない。恋愛は自由で妊娠したら、女が産むかどうかを選べる。産んだ後は学校(乳児院)に預けて、そこで2歳まで子供は育てられる。それ以降は親の資格が認められた人の手に渡される。ということだった。
子どもの人権もない上に、育てる責任もないのすごいな。麻酔薬があるなら無痛分娩でみんな産むんじゃない?人口増加しそうだけど、それは大丈夫だったのか?
と、疑問しかない設定になっている。それとも、ひっそり間引きでもしてたのだろうか。間引き制度がないとこんなシステム成り立たないような。それとも無痛分娩はないのだろうか。さらに言えば、こんなシステムだと男がやり放題だよ。だって、産ませる責任も育てる責任も何もないんだから。ずっと『恋人気分』で女といちゃつける最高システムで、女は産むだけ機械にされる可能性も。
その前に避妊アイテムはどうなってるんだろう。避妊パッチなど避妊アイテムは完備されてる世界なのだろうか。その辺りの設定がないと男の楽園でしかない。
さらに子供にとっては、愛着が必要な時期に慣れ親しんでいた人(親)と引き離されるシステムになってる。これ、乳児院なんかでも問題になってるらしいけど、幼少期に信頼している人間から引き離すと『人間不信』『愛着障害』など色々弊害を起す。つまり、最悪システムがこの島で成り立ってしまってるってことになる。
あと、沖縄の人たちを全滅させるとか、彼岸花は依存性があるから「チュウゴク」などに売れるとか……それ歴史的にいろいろ踏みまくってないか?と思ってしまった。
物語の中では『ノロになりたい男の子タツに島の歴史を伝えるか』迷うシーンがある。
でも、迷う理由が『今でも、およその女より、男の方が腕力がある。』160p
それを言うなら、妊娠出産の可能性のある女が島を守ったり貿易をする方がおかしい。島の外は男の方が権力があるなら尚更……。女が貿易で上手くやるには、……そういうことをやって上手く商売を回したってことか??と要らぬ詮索をしてしまう。
よほどの商才と度胸とあしらいが出来ないと女が商売するの難しいと思うけど、そういう話は書いてない。
『腕力がある』ではなくて、『戦を好む凶暴性』が歴史で問題視されていたのになぜそういう部分がスルーされてるのだろうか。疑問しかない。
しかも、『男に教えて問題が起きたら、その時考えよう』と結論付けてる。いや。問題が起きた時には男が権力を握ってて、それを取り返すのは不可能なんだよ。むしろ、『女が権力を持った島』というものの方がおかしいわけで。
なんていうか、こういう部分が『トランスジェンダーの問題と同じことを言うんだな』と思わせてくれる。絡ませて考えちゃダメ?考えちゃうよ。
さらに言えば、男性が『戦が嫌になったから女に責任を全て渡す』というのもおかしい。せめて、ここは『当時トップにいた男性が自分の大切な女性を亡くして反省した』みたいなエピソードが一つ挟まるだけでもう少し読めるようになるのだけど。『物語としての理由づけ』ぐらいしてほしい。
ウミ(島にたどり着いた少女)とヨナ(島の少女)がノラ(巫女のようなもの)になる理由も正直分からない。ウミは大ノロに言われてだけど、ヨナの理由は憧れ。幼馴染のタツがノロになりたいとういうから、自分たちがノロになってルールを変えようと言い出すシーンはあるけど、その前からノロになると張り切っている意味がわからない。
最終的にノラになれても、刺青を入れる時には「痛いよ~」と泣き出す。
成人になった女性が子供のように泣きだすのはどうなのだろう。さらに泣いているヨナを見て、ウミが「麻酔効果のある彼岸花を使えば……」と言い出すが、大ノロが皮肉で返すシーンもいい年をした老婆がそんな大人げない事を言うだろうか。しかも、その言葉はおそらく『今までの新人のノロ』たちも言っていた可能性がある。これまでも適当にあしらう言葉があったと思うのに、皮肉でわざわざ返さないといけないのだろうか。
物語としても細部が引っかかって、全く浸れない。
キャラクターも世界観も物語も全部モヤっとする。
あとは、どうでもいいことだけど『ノロ』はノロウィルスを思い出してしまって、読んでるうちにお腹が痛くなってきてしまった。言葉とイメージが結びついてしまってると引きはがして捉え直すの難しい。
ごちそうさまでした。
『彼岸花が咲く島』