おうち性教育はじめます 一番やさしい!防犯・SEX・命の伝え方 単行本
– 2020/3/3 フクチ マミ (著), 村瀬 幸浩 (著)
「おうち性教育はじめます 著:フクチマミ 村瀬幸浩」を読んでみた。
おうち性教育。ツイッターでよく画像が流れてる。宣伝方法がすごいなと思う。部分的に読ませつつ、買ってもらえる率も上がる。漫画だからこそ『見やすい』というのもあるのだろうけど。本よりもまず、売り方に感心してしまった。
中身もよかった。でも、イマイチな点も少々ある。
目次ごとに見ていく。
1章 おうち性教育=子どもの幸せを守るための教育です。
性教育はどうしようーと悩む親たちの前に現れるウサギの村瀬先生。かわいい。
さて、ここで明かされる事実
『日本の性教育はハッキリ言ってかなり遅れている』16p
『日本では世界のポルノの約六割が作られていて性産業先進国と呼ばれている』17p
すでに知ってたけど、改めて本で見るとすごいなぁと思う。
だから「いや」「やめて」が「ポルノの言葉(喘ぎ声)」だと思っている海外の人がいる……という事までは書かれてないけど、私が見てるtwitter世界ではそういう情報も飛び交ってる。
「いや」では通用しないので、「やめろ」を教えよう。こんな露骨なことまでは『親向け』の本には書けないんだろうな。
そして、性教育を教えることで『子どもは自己肯定感の高い人間に育つ』20p
この辺りは、少し疑問。因果関係が逆な気がする。
『性教育の価値を知り、子供にしっかりと伝えようとする親』が、自分の知識の更新と共に子供の価値観に対する否定的意識をとりのぞくことで、『子どもの自己肯定感が高まる』のではないかなと。
性教育から学ばなくても、子どもの人権を学んでそうなる可能性もあるし、もっと別の教育本からそうなる可能性もあるので、性教育必須でもないのかもなぁ……とは思う。
なのに、性教育と『子どもの自己肯定感の高まり』が紐づけられてるのは、『メリットを示すこと相手が話しを聞く姿勢が出来る』というコミュニケーションの基本がここで使われてる。
上手い仕掛けだなと思ってしまった。この本は人を『説得する方法』があちこちにちりばめられてる。そういう部分もすごいなと思う。一方的な親への叱責ではなく、「その気持ちはわかる」と一旦受け止めた上で「でもね……」と話を進ませる方法も、暗に『あなたたち親もこの方法で子供の話に耳を傾けてね』というお手本だなと。
『性教育は「いのち・からだ・健康」の学問。性は知識や学習によって形づくられる「文化」であり、そのしくみの基本はまず「自然科学」
そしてこれからの世の中を生きていく人格を育てるのに必須の「教養・知性」なんだ』18-19p
さらりと「わからない」と流されてしまってるけど、この説明すてきだなと思う。ただ……わかりづらい。
2章 おうちでまず伝えたい3つのこと
プライベートパーツの話とNO(拒否を伝える)・GO(逃げる)・TELL(相談する)の話とタッチング(触れあい)とリスニング(話を聞く)の話の3つ。
これを読みながら、姪っ子が小さいころ、私のおっぱいに触ろうとしたので、「だめだよ~」と軽い拒否でダメを教えていたのに、姪っ子親が「それくらい、別にいいじゃん」って言い始めたんだよな。……親の教育ほど難しいものはないのだけど、『子どもを持つ親への教育法』を私は知りたい。これ本の最後の方に「パートナーが非協力の場合は?」という質問があったけど、『変わらなかったらしょうがないよね』という答えだったので、ああ。大人は難しいんだなと改めて思った。
3章 親も一緒に! からだとこころを学ぼう 前編 男の子編
子どもに伝えるときの注意点。
・淡々と事実だけ。・価値観をくっつけない。・子どもが興味を示した時に答えるのがベスト。・高学年以上は同性の親が伝える。など。
親には必須の情報。仮に『親に頼まれて子供に伝える立場になった場合』も使えそうでは?と思った。……でも、そんなときのためにこの本を買うのは厳しいな。だって「親のための本」だから、親以外が手に取るのハードルが少し高い。
66pの「おちんちんを褒めてあげて」「これは自分のからだを好きになるための大切な土台になる」ということが、欠片も理解できないのはどうしようかと思ってる。
これ、たしか『「生理」と「セックス」を子供に正しく伝えるための本』でも、おちんちんを褒めてという話があった。ほんとうにどんな理屈なのかわからない。
女の子の性器はほめないよね。なんで?
と思ったけど、もしかしてこれは逆なのかなと思った、男社会(?)の中ではいまだに『大きいのが良いおちんちん』みたいな価値観がある。もしくは、男の子の脳はそういう傾向がある(?)から、男の子が自分のおちんちんで凹む前に『他者からの承認』を与えた方がいいという感じなのかなと。女の子と違って、男の子のおちんちんは目立ちすぎるし、男の子は比べたがるものだから……みたいなことなのかな。その辺りの話が書いてある本を読みたい。ただ、それが男の価値観に基づくものなら、「それがおかしい」のであって、わざわざ褒める必要はあるのだろうか?とは思うけど。
『精液を『汚い』と感じてしまう男子が何割かいるんだ』73p
そして、精液で「汚れたパンツ」と言ってはいけない。など、男の子に向けては「汚くないよ」という話がこれでもかと書いてある。男の子の精液は汚くないかもしれないけど、その周囲に雑菌が付随していたら汚い(雑菌まみれ)です。これをそのまま子どもに伝えると、『精液は汚くないから、相手の顔にかけても大丈夫』という事故が起きないのかなとは思った。汚いというイメージを植え付けないということは大切だろうけど。『精液は汚くないから、精液に触れた手で食事をしても大丈夫』という化け物が出てくるのも困るので、精液自体は汚くないけど、周辺は雑菌まみれなので精液を触った手は洗う。付着したものも洗うという教え方にしてほしい。
本では『本当はむしろ「大切なところだから触る時は綺麗な手でね」のように言いたいね』76p
となってたけど、いや。大切なところだけど、雑菌も溜まりやすい場所だから、『触ったら洗おうね』は間違ってないと思う。仮に『お股を触るのは汚いよ』が問題ならば、『お股に触る前に手を洗って、触った後も手を洗おう』でもいい。わざわざ『汚い』とは言わない。言うなら、『お股はばい菌が多い場所だから、気を付けよう。お股には自動で綺麗にしてくれる機能がたくさんあるけど、手には自動で綺麗にしてくれる機能がないから自分たちで洗う必要があるんだ』というところだろうか。
要は『汚い』という言葉を捨てて、他の言葉で代用しよう……と書いてあれば、納得できるのに、『汚いはダメ』で終わってしまうと親は困るだろうな。
3章 親も一緒に! からだとこころを学ぼう 後編 女の子編
『クリトリスからおしっこが出ると思っていた』94p
ああ。私も同じ。二十歳ぐらいまでそう思ってた。その後は図解を調べて理解しようとしてきたけど、実物と上手く当てはまってくれなくて、何がどうなってる?ってずっと思ってたのよね。女性器の形は複雑すぎて、意味わかんないんだけど、なんでみんな理解できてるの?まして、クリトリスなんて用途不明な物体……なんであるの?としか思えないのだけど。
これより前に、女の子は立ってできないんだよと書いてあったけど……。姪っ子は赤ん坊の頃、おしっこを飛ばしまくった。この話、母に聞いたら、「そんな事をしたのは○○(弟)だけ。あんたたち三人は飛ばしてないわよ」って。女の子がおしっこを飛ばすにはどういう仕組みで飛んだのか知りたい。たまたま尿道とおむつ替えの姿勢の角度が上手く合致して飛ぶことが出来たのだろうか?
角度と勢いしだいでは疑似的に女性でも立ってすることはできそう。(多くはいないだろうけど。そして、男性と違って勢いがなくなると濡らす可能性大)
女の子編は生理の事と、出産のこと……。
なんで、女の子に対しては『汚い』と言ってはいけない。と書いてないんだろう。汚いから?それとも、女の子は汚いと思わないから?そんな事よりも、生理・妊娠・出産の話の方が重要だから?と、思ってしまった。いや。男の子編でまとめて『女の子も経血を汚いと思うし、経血のついたパンツを汚いといってしまうことが多いから、それはやめようね』って書いてあればよかったっていうだけの話だけど。あの辺りの話、別に『男の子だから』ではないよね。男の子に限定してあったのがモヤっとする。あ。違う。
『男の子は雑に扱われて、汚いと軽く言われることが多い』から書いてあるのか。
女の子の場合は気を使って、親はそんなことは言わないという社会の思い込みが入り込んでるのかな。……いや。これも親によるよ。母親の方が女の子を雑に扱う場合もあるから、そういう親のためにも丁寧に『女の子に対してもそれは言ってはダメ』って書いておいてと思う。そう言う親はそもそも性教育の本なんて手に取らないよ……とも言われてしまいそうだけど。間違って手に取った場合のためとか、他の親がこの本を見せる場合も考えて女の子の話も書いてほしいな。
4章 こんな時どうする! 性の話Q&A
Q&A形式で書かれてる。
避妊の話を二人で出来るようになってから、セックスをする……というのいいなと思う。
『男女は平等だけどセックスの結果として受け取るものは平等じゃないの
妊娠や中絶は女の子の心と体にすごく大きな負担がかかる』153p
これ、何かのドラマでもあったような気がする。セックスの結果は平等ではないのよね。女性の負荷が大きすぎる。
他にも役立つ質問&回答がたくさん。
5章 大人が知っておきたい これからの性の話
性行為には3つの種類がある。
1.子供を作るため(生殖の性)
2.ともに楽しく生きるため(快楽・共生の性)
3.支配するため(支配の性)
これ、わかりやすいと思った。3の形を恋愛だと思ってる人が多すぎるのも問題。
だから、『大人が学べ』なのだけど。
多様性の話も入っている。同性愛の話の『古代ギリシャや江戸時代の日本は同性愛が当たり前だった』という説明に、疑問符。ギリシャは知らないけど、江戸時代までの日本の同性愛って、僧侶や武家社会の『権力ある男』が『年若い男』を囲うなのでそもそも『対等な関係』ではない。これは3の支配の性だと思うのでこれを同性愛は普通だったという文脈で語るのもどうかなと思う。
この本もか……と思ってしまった部分はあるけど、これは社会がそうだからなのか、それともその部分は私の情報が足りなくて疑問に思うのか……と、迷う。
もう少し補完情報がほしい。子供向けではなくて、がっつり大人向けでいいから。
でも、本自体は漫画形式でわかりやすく書いてあって、良い本だなと思う。
お子様がいる人にお勧め。子どもがいなくても読んでおいて損はない。
ごちそうさまでした。
『おうち性教育』
「おうち性教育はじめます」を読んで
「おうち性教育はじめます 思春期と家族編」を読んで