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「ストレス脳」を読んで

2024/07/23

ストレス脳 (新潮新書) – 2022/7/19 アンデシュ・ハンセン (著)
ストレス脳 (新潮新書)

「ストレス脳 著:アンデシュ・ハンセン 訳:久山葉子」を読んでみた。

スマホ脳』から、スマホの話を消してストレスを中心にした感じ。基本的な話は『スマホ脳』と一緒かなと思う。
ストレス・うつについて詳しく書いてある。

第1章 私たちはサバイバルの生き残りだ
脳は生き延びるために進化してきたという話が書いてある。長い間、人の寿命は三十年ほどだった……私、死んでる。と思ってしまった。普通に考えて、人間に殺されてるか感染症で死んでるかのどちらかな。運がよければ肉食獣の餌。大半はそんな生活だったという事が書かれてる。寿命が延びたのはここ二百年くらいらしい。日本だとほとんど餓死だろうな。洪水や地震などの災害死もありそう。
人類の歴史と、感情はなぜあるのかという問いで終わっている。

第2章 なぜ人間には感情があるのか
第3章 なぜ人は不安やパニックを感じるのか
感情は脳が人間を行動させるためにあるという事が書かれている。不安は回避行動を行わせるためにある。ただ、それが行き過ぎると命の危機だと判断してパニックになる。
パニック発作は脳の正常な反応という事らしい。でも、当事者にそう言ってもあまり意味はないので伝え方は重要。

「人前で話すというのはグループから追い出される危険性、つまり命に危険が及ぶようなことだった。」57p

単に「失敗が怖い」とか「笑われたくない」程度に思ってたけど、人間の脳にとっては命の危機で緊張するのは当たり前らしい。……むしろ、人前でしゃべることができる人間の方が脳のシステムが上手く動いてないか「何度も繰り返して、それが危機ではない」と刷り込ませたかのどちらかなのかなと。

「幼い頃に強いストレスを受けると、脳はこれから生きていく世界はとんでもなく危険だというシグナルを受け取ってしまい、その結果警報を鳴らす備えを最大限にして、火災報知器が敏感になってしまうのだ。」72p

火災報知器は例えとして使われている。不安への感度の事。ただ、不安に襲われやすいかどうかは遺伝子で半分決まるとなっている。要因はいろいろあるのだろうけど、私の場合は「幼少期のストレス」だろうなと思ってしまった。

不安を持つことで人は生き延びてきた……と言う話。幸福感や満足感は一時的で、長く続かない。


第4章 人はなぜうつになるのか
第5章 なぜ孤独はリスクなのか
うつの時は免疫力が上がっているので、うつは感染症への対応のためではないのかという推察が書かれている。だから、ひきこもったり人に会いたくなくなるのだと。ただ、過剰な免疫反応が炎症を起こして、うつの要因になるという無限ループになってる可能性もある。

次の章では孤独は鬱の原因になるということが書いてある。

「防御要因の中でも重要なのは限られた数の親しい友人で、一緒にいてリラックスできる人たちの存在だった」137p

数は多くなくてもいいので、リラックスできることが大切らしい。そういうの難しい。一人が一番安心する。家の鍵を閉めて、部屋に閉じこもってる時が一番安心。

その後のコラムで、若いときは孤独を感じて45くらいから孤独感を感じる人が減り、85歳を超えると増えるという話が載っていた。なるほど、45ぐらいから人生が変わるのか。
ただ、これも遺伝子云々……みたいな話になりそうだし、不安を感じる人は人間にも不安を感じていて孤独になりやすくうつになりやすいのかなと思う。


第6章 なぜ運動でリスクを下げられるのか
運動の話。スマホ脳とほぼ一緒だなぁと思いながら読んでいた。
散歩をした方がいいらしい。私の住む所なら、熊鈴必須だなと思いながら読んだ。

第7章 人類の歴史上、一番精神状態が悪いのは今なのか?
第8章 なぜ「宿命本能」に振り回されてしまうのか?
第9章 幸せの罠

精神状態は測るのが難しいので、今が「悪い」のかもわからない。でも、田舎での生活はうつが少ないとなっていた。ただ、原因がわからないし、他の要因も絡んでそう見えるだけかもしれない。
うつの予防には「運動」と「仲間と一緒に過ごすこと」が必要なので田舎の方がその二つが満たされている人が多いのではないか……という予測はされている。畑と人のうわさ話かなと思ってしまった。

「宿命本能」とは「そうなる宿命だった」と思い込んでしまうことらしい。うつが遺伝子で決まるなら、「最初から鬱になるのは決まっていた」となるみたいな事。
おもしろいな。例え決まってるように見えても、「不可解な要素」が入り込む余地は多々あるのでそうではないよという結論。

「脳は隣人より多く自分がもっていると感じた時に幸せを感じる」という事らしい。つまり、比較しないと幸せになれない……何その不毛。常に自分が「持たざる者」の立場だった時は、一生幸せを感じることはないの??と思ったら、ラストが素敵にまとめてあった。

「私が聞いたことのある中で最も建設的な幸せの定義は、「ポジティブな体験」と「自分自身に対する深い洞察」の組み合わせだ。自分は何が得意で、それをどんなふうに自分そして他人のために使えるのかを理解すること。そうすることで自分の外側に広がっているものの一部になれるからだ。」240p
幸せの定義が素敵。自分の外側の一部になること。それが幸せということらしい。そういう考えもあるんだなと思った。


進化の話が一番面白かった。
人類の大半はティーンエイジャーになる前に死んでいる。私の父の母子手帳があるけど、そこに死産や流産の数を書く欄がある。それだけ死産流産が当たり前だったという事。母も流産経験してるし、私が子供の時も同級生が二人事故で亡くなっている。生き残ることが奇跡な時代をずっと過ごしていて、今、やっと「死ぬことが不幸」の時代になっている。そして、自殺者は増えている。人間の脳は現代に合っていないから、「不安」で「死ぬ」という異常な事態になっている。でも、これも何世代も続いたら次は「不安」を感じる人がいなくなりそうだけど……その前に人類か文明が滅びる可能性の方が高いのではとも思う。

そして、「不安がない」事で「高層マンションから落ちる子ども」もいる。これは進化よりも「慣れ」が大きいのだろうけど……不安は持っていた方がいいってこういう事なんだろうなと思う。

不安は友達。大切に飼っておこう←そうではない。

「スマホ脳」だけでも充分かもしれないけど、不安やストレスとお友達になりたかったらこの本を読むと良いのかもしれない。



『ストレス脳』