「アンクル・トムの小屋 上 著:ストウ夫人 訳:大橋吉之輔」を読んでみた。
図書館で借りた本。驚きが沢山だった。文庫なのに特製版でハードカバー(表紙が固い)だった。こういう本を見たことなかった。いつものソフトカバーの文庫だと思ってた。でも、もっと驚いたのはページが8枚(16ページ)、繰り返されていた。代わりに最後に入っていなかった8枚分を印刷した紙が挟んであった。こんなエラー見たことない。話には聞いてたことあるけど、実在してるんだと思ってしまった。
本の装丁だけで時代を感じてしまう。(出版は昭和40年代)
ついでに加えると、この本は今は閉店してしまった町の本屋(個人書店)さんから寄贈されたものだった。町の移り変わりも感じさせてくれる……。
本の事は一旦脇において、中身を語る。
アンクル・トムの小屋はタイトルだけは知っているけど、読んだ事がなかった本。
黒人奴隷たちのお話だった。これがまだ奴隷がいた頃に書かれたものなのは、すごいなぁと思う。今の価値観だと『奴隷なんて存在してはいけない』と分かってるけど、まだ『奴隷が必要』とされてた時代に書かれたものだと思うと、自分(作者は白人)すら批判しかねないのに書いてるのすごい。
ただ、現代では黒人がステレオタイプという批判もある……。たしかに、ステレオタイプな点はあるけど、それを差し引いても伝えたいことは伝わってくるのですごいなあとしか言えない。
作者名に『夫人』とあるように女性が書いたものという点も興味深かった。女性的な視点が多いと思う。
物語はシェルビーに所有されているトムという奴隷と、エライザの息子を売る話から始まる。
エライザは息子を連れて逃げ出すことに決め、トムは売られる事を受け入れることに決める。物語はここでエライザの話とトムの話に分かれてしまう。
息子を連れて逃げ出したエライザは幸運と人々の助けを借りて、逃げることに成功し、逃げた先で夫にも出会うことが出来る。
対して、トムは優しい主人たちに出会うことが出来、悪くない時間を過ごす。
ここまでが上巻のお話。
沢山の人が出てきて、奴隷の悲運も所々に描かれるけれど、今のところおおむね、そこまで悪い状態ではない。
……『ルーツ』より平和と思って読み終えてしまった。比べてはいけない。
他にも奴隷に関する本を読んでるとつい、比べてしまう。
ところどころに、聖書などの話が入ってきて、トムはキリスト教を学んでそれを信じている。その為か、くどさも感じてしまった。
奴隷制を批判している者たちでさえ、黒人(奴隷)を差別(嫌悪)して自分とは違う存在だと思っている。というのも、現代では当たり前のようなもの(知らないものは怖い)だけど、この時代にそれを描いてるのはすごいと思う。
気になった点。
『でもあたしは、その悪を美しく変えられると思っていたんですの。親切に世話をし、教えたりして、彼らを解放するよりも、もっとよい状態にできると思っていました。なんてばかだったんでしょう!』67p
シェルビー夫人の言葉。夫に奴隷を売ることを反対している話の中に出てきた。
奴隷所有も何か意味あるものにできると思っていたけど、『主人の思惑次第で売り買いできる商品』にすぎないことを理解して絶望している……という言葉だと思う。夫人は奴隷制反対。ジェルビー氏は反対はしてないし、自分には売り買いする権利があると思っているが、積極的に売り買いしたいとは思ってない……というヘタレ。
『悲しい事に、この不幸な種族の奇妙な特徴でもあるのだが、まったくやさしい家庭的な心をたっぷり持っているトムは、立ち上がって、静かにこどもたちのほうへ寝顔を見に行った。』165p
この辺りの作者の黒人を見る視線は差別的な部分もある気がする。こういうのが時々混ざっていることが残念だけど、それが当時、奴隷制反対している人たちでさえ持っていた感覚なのかもなとも思ってしまった。……でも、訳のせいでそうみえるだけだろうかとも少し考えてしまった。原文が読めない(英語苦手)ので、わからない。もしくは、小説的な盛り上がりのための文章?……いや。その場合は少しクドイんだよな。
『アフリカから、黒人を買うということは、たいへん恐ろしいことです、考えるべきこおじゃありません、と彼らは言う。けれども、ケンタッキーから黒人を買うということはそれとはまったく別のことなのだ。』231p
当時の奴隷制反対の意見を書いてるのだろうけど、たぶんこういう意見が『見えやすかった』のと、こういう意見に作者さんは嫌悪を抱いていたんだろうなと思う。
でも、現代も似たようなものだし、誰しもが『自分の意見の深い部分まで話す』ことは珍しい気がするんだよな。
『「ばあやはずっとあたしのお気に入りだったわ」とメアリィは言った。(略)「絹やモスリンの服がいくつも、本物の麻の上質のものが一着かけてありますのよ。ときどき、午後じゅうずっと、あれの帽子をふちどってやったりして、(略)生まれてからいままでに、鞭で打たれたことは一度か二度くらいしかないわ。』289-290p
これが奴隷に対する優しさであって、人間に対する優しさはひとかけらもないということを表してる。けれど、この女主人は『自分が優しい人間』だと信じ切っていることが怖い。ちょっとしたホラーだ。
『あなたがたは蛇や蟇(ガマ)をきらうように黒人たちをきらっているでしょう。それでいて、彼らの待遇が不当だと腹を立てたりするんです。彼らを虐待はしないけれども、彼らとかかわり合いになることはごめんだってわけですよ。』304p
ここでの『あなたがた』は北部の人間。話しているのは南部の人。奴隷制に反対しながら、黒人を差別するのは北部の人だと責め立てている。南部は奴隷制があり、奴隷として使っていたけど、露骨な嫌悪を見せる人はすくなかった……らしい。
物語がテンポよく進んでいくので読みやすいのもよかった。思ったよりは優しい主人たちの物語だった事も読みやすさのひとつ。
楽しく読めた。ごちそうさまでした。
