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「絶対猫から動かない」を読んで

2024/03/10

絶対猫から動かない
– 2020/3/28 新井 素子 (著)

絶対猫から動かない

「絶対猫から動かない 作:新井素子」を読んでみた。

去年、面白かったとお勧めされた本。
面白いと思うのは分かる。わかるけど、私には合わない。

『電車に乗った夢に閉じ込められる』という物語。主人公は『大原夢路』という50代女性。最初は夢ではなくて、実際に地震にあって、少しの時間だけ電車に閉じ込められる。その間に女性が倒れて救急車で運ばれていく。

物語はその電車の時間を『夢の中で繰り返している』ということに主人公が気が付くことから進む。しかし、現実とは少し違って中学生グループから悲鳴が聞こえ始め。夢に入る回数が増えるごとに酷い叫びで無視できなくなる。夢路の友人『冬美』がなんとかしたい……と言い始めたことで、夢路は動き始める。

電車の中には夢路と友人の冬美50代、倒れた女性に寄りかかられる『氷川』50代。倒れた女性を気にかけていた『村雨』60代、中学生グループに顧問の先生20代、倒れた女性に付き添った看護師さん20代がいる。
最初は夢で夢路が倒れた女性の方へ行って『氷川』と『村雨』の情報を得て、現実でも繋がる。さらにそこから中学生グループに繋がる。
電車の中では『三春ちゃん』という妖怪が人の生気を吸って中学生が亡くなってしまう。三春ちゃんは「昏睡した人が死ぬまで結界が解けない(夢が繰り返される)」と告げる。そこから看護師さんを探して見つけて、電車内で三春ちゃんとバトルになる。

三春ちゃんが自分が何者かを思い出して、結界が解ける。

というドタバタストーリーだった。
まぁ。面白いというのは分かる。次々と問題が起こって、よくわからない『三春ちゃん』に『村雨さん』のボケた言動。ヤンキー看護師さんなんて、物語をぶち壊すいいアクセントになっている。

でも、物語が全て分断されていて、何を読まされてるのか分からなくなる。

これ、わざわざ60代だの50代だの書いてるけど、中学生から60代まで使ってる言葉もほぼ一緒。雰囲気もほぼ一緒、価値観もほぼ一緒と、年齢を出す意味がこんなに消えるなんてと思いながら読んでしまった。

一人称で書いている部分も、一人の作家が書くのだからこうなるわな……と思いながら読んでしまう。キャラが立ってないというか、分かれてない。介護が仕事が、家族が、息子が、孫が……というしがらみ満載という雰囲気を出したかったのだろうなと思うけど、家族が一度も出てこないのでリアリティがない。『氷川』なんてひきこもりの息子との確執があるみたいなことが書いてあるけど、それ何? 読者が『50代特有の男らしさを持っているキャラが息子と折り合いが悪い』って察しないといけないのか。もっと具体的エピソードの一つぐらい入れてくれ。それだけで物語がリアル寄りになるのに、この物語は最初から最後まで『ファンタジー』一色なので、そんなリアルな問題は『説明』だけで終了。

『説明で60代50代の大変さ』を書いてるので、このキャラがその年齢である必然性が分からない。さらに言えば『子供を守らなければ』みたいなのも出てる(あ。主人公はそうでもない)けど、それも、なんかやってる事がおかしいし、結局中学生に学校をさぼらせてるのはどうなの?矛盾してない?と思ってしまう。

かと思えば、よくわからない独白が延々と続いた。いや。その感情の揺れ読まなきゃダメなわけ?それこそ『まとめてくれ』って言いたくなるほど長い。おかげで飛ばしつつ読んでしまった。

たぶん、この『独白』がある意味ウリなのかな……とは思った。

そして、散々問題になっていた『結界を解いて夢から脱出する』という目的は『三春ちゃんが勘違いしてただけだから、解ける』事になる。
ここまで読んでいた物語、なんだろうな。50代女性の大活躍でもない。現実がちょっと変わったかもねという匂わせはしてるけど、たぶんこれは『変わらない』パターンだろうとしか思えない。(でも、物語的には変わったことにしたいのは分かる)

最後の最後は『三春ちゃんの都合全開』みたいな、三春ちゃん物語になっていた。

これは大人向けの児童書感覚で読むのがいいのかなと思う。90%ファンタジーで楽しめる。文章も大人向けを期待してはいけない。児童書と思って読んだ方がいい。


650頁にはめまいがしたけど、中身はサクサク読めるのでよかった。
三春ちゃんが何の妖怪だったのかは気になる。一つ目?目がぎらぎらってそういうもの?と思ってしまった。
広げた風呂敷は仕舞われてないので、『謎が解ける』と思わない方がいい。これは『謎は解けない』物語。だって、『夢』だものね。
不思議の国のアリスと同系っぽいなと思った。


でも、もういいかなと思う。ドタバタ好きなら面白いだろうな。

『絶対猫から動かない』