編集

「ぎゃくたいってなあに?」を読んで

2024/03/09

ぎゃくたいってなあに?
– 2020/1/24 青木 智恵子 (著), 溝口 史剛 (監修)

ぎゃくたいってなあに?

「ぎゃくたいってなあに? 著:青木智恵子」を読んで

ぎゃくたい(虐待)についてわかりやすく書かれている本。子供向けなので言葉が簡単。総ルビで読みやすい。

『子供向け』というだけではなくて、『日本語勉強中の人』や『難しい言葉をうまく理解できない人たち』にも有効……と最近思う。優しい言葉で書くだけで、届く範囲が広がる。
さらにこの本は『読字障がい』の人にも読みやすいUDフォントになっていると書かれていた。文字が大きいだけでも読みやすいのにフォントまで配慮が行き届いてるのすごい。

そして、しっかりと『読むも読まないも自由』『気分が悪くなったら、大人に伝えてね』ということまで書かれてる。読んだ子供への配慮がすごい。それだけ虐待の話は子どもにとって重いということ。……大人にとっても重いし、嫌いで見たくないという人もいる。
「はじめに」だけでも配慮がすごいなと思った。

目次ごとに見ていく

第1章 権利のお話
1 みんな『権利』を持っている
2 ぼくもわたしも持っている「子どもの権利」

権利とはと言う話になってるけど、ここに書いてある権利は
・安心(怖い・痛い・嫌な思いをしないで過ごす)・自由(他人を傷つけないかぎり、感じたり思ったりしたことを表現してよい)・自信(自分や他人を大切な存在だと思って過ごす)のこと。分かりやすい言葉に置き換えられているけど、人権の話。

子どもにはこれらの他に、『失敗したら安心して教えてもらう権利』や『子供にあった方法で才能や力を伸ばしてもらう権利』がある。

その権利、私が子どもの頃に教えて欲しかった。と思う、私のような大人がごろごろ居そうだなと思う。

第2章 虐待(ぎゃくたい)ってなあに
1 『虐待』とは
2 虐待の4つの種類
 ・1 身体的虐待(からだが傷つく)
 ・2 心理的虐待(こころが傷つく)
 ・3 ネグレクト(ひつようなおせわを してもらえない)
 ・4 性的虐待(エッチなこと……で、嫌な思いをすること)

4つ以外にもあるけど、おおまかにはこの四つ。私が虐待を知ったころは、身体的虐待と性的虐待、ネグレクト……はあったけど、心理的虐待は新しい概念のような気がする。
基本的な説明を分かりやすく書いてある章。

第3章 お友達に起こった「虐待」のお話
(具体例5つ・略)

5つの虐待事例とそれについて考えてみる章。最初に『ツラくなったら読むのをやめよう』と書いてある。
よくある虐待事例で目新しいものはない(←酷い感想)けど、最初で虐待放置をしている親への指摘もあるのは新しい気がする。
父親が子どもに暴力をふるっていても、止めることはしない母親という構図はよくあるし、大人になって思うけど……暴力をふるう人間は怖いという気持ちは大人も変わらないので『黙る母親』の気持ちが分からないわけでもない。でも、子供視線だとそこは『母親の気持ちを分かる必要はない』とも思うので、この『子ども視点の本』はいいなと思う。

二つ目では、自分が叩かれたくなくて妹のせいにする兄が出てくるけど、これも『お兄ちゃんが悪いわけではない。叩く大人が悪い』になっている。虐待の怖いところは、『大人が子どもたちに暴力を振るうように仕掛ける虐待』というのもあって、それで兄弟が死んだという事件もあった。暴力をふるった子供は『自分のせいだ』と苦しむもしくは、『弱いから暴力を振るわれるんだ』という間違った学習をする。
そうすると『虐待することが当たり前で、される方が悪い』という学習をしてしまうこと。これ実は、うちの妹がそれに近いな……と思う。親子間になると倫理観がぶっ飛ぶ人間は存在する。

三つ目は心理的虐待の話……。これ、まんま私もされてたことに近いので、読んでてつらくなってしまった。兄弟間で比べるとか、女だからとか、少しの失敗で「バカ」だ「何も知らない奴だ」と散々言われるのとか……フラッシュバックしてしまった。
たぶん、人に話してもこの辺りは「そんなの普通だよ」とか「親も子供に頑張ってほしくて」とか親擁護の言葉を言われるだけで、『大したことない』扱いされるのも分かってるから言えないけど、こういうのじわじわ心を削っていく。そうやって子供時代を過ごしたら、大人になる頃には何も残ってない。
で、これも「親もそれをやられて子供時代を過ごして来たから、少しでも自分を大きく見せるために子どもに対してやる」という虐待の連鎖の一種だと思う。そして、この虐待の連鎖が一番多い気がする。問題になりづらく、子供も親も他人も虐待だと気が付きづらいから。

四つ目はネグレクト、五つ目が性的虐待。
性的虐待の話は、母親が「このことは話しちゃいけない」というのも含めて、親が子どもの話を認めてくれることは少ないのだろうなと思う。
うちの母は父の父(義父)に布団の中に入ってこられたことがあって、それを父に訴えたことがあるらしいけど、父はそれを信じなかった……という話を聞いてるので、たぶん、家族内の性的な事はそもそも『信じたくない』という想いが先に働く。

だから、性的虐待だけは『外に訴えた方がいい』のだろうけど、性的な事だけに訴えるのも難しそうだし……いろいろと悩むのが性的虐待で質が悪い虐待だと思う。


第4章 「助けて」と思ったら

大人に相談しよう。子どもの人権110番や児童相談所、おまわりさんへ。

と書いてあるけど、ちょっと待って。これ『電話番号の相談先』ばかり。漫画形式で『図書館や図書室で借りた本を返す時にメモを挟んで知らせよう』というのはあるけど……。インターネットでの相談先を一つぐらい入れてもと思ったけど、ネットが使えるなら自力で検索するだろうという話なのだろうか?

相談先への誘導が一番難しいのかな。メモも『見つけてもらえるか分からない』という点もある。


最後は『大人のみなさんへ』とある。これ、「保護者のみなさんへ」ではないのがいいなと思う。子どもに関わる、関わらないに限らず『大人』に呼びかけるのいい。
「大人こそが変わらなければいけない」
本にも書いてあるこの一言に尽きるけど、虐待された大人もそれに気が付かず『それでよかった』と思ってしまっている部分もあるので変わるのは難しい。
2020年に体罰禁止になったけど、体罰以外の方法が周知されているとも思えないもどかしさも書かれている。


これも『大人が読んだ方がいい本』
むしろ、大人が読め。

きみの人生はきみのもの』は権利を知って、どう使うかという本。こちらも「ぎゃくたいってなあに?」と合わせて読むと良いのでお勧め。

『ぎゃくたいってなあに?』