考える脚 北極冒険家が考える、リスクとカネと歩くこと 単行本 – 2019/3/27 荻田 泰永 (著)
「考える脚 著:荻田泰永」を読んでみた。
面白かった。
もっと淡々としたものかなと思ってたけど、北極探検歴史やこれまでの冒険家の話なども書いてあって、読みごたえがあった。大航海時代の話は『砂糖の歴史』でも載っていたので、その辺りの話を頭から引っ張り出して重ね合わせて考えて読んだ。
インド側に通じる航路はスペイン・ポルトガルが押さえていたから、イギリスなどがそれ以外で中国などへ行く方法を模索するために北極海側の航路が開拓されていった。スペイン・ポルトガルが弱まったのでイギリスがインド側の航路へと出てきたと。
歴史、楽しい。
たしか、『フランケンシュタイン 作:メアリー・シェリー』も最初は『北極探検』の船が出てきてたと思う。1818年の小説に出てくるくらいには話題に上るものだったんだろうな。
歴史も面白かったけど、旅の中身も濃い。
『寒くても尻は出せる。が、最近はウンコをするにもテントの中で済ませてしまうことが多い。』31p
えええ??と思ってしまったけど、一部の雪を掘ってそこにしてから、周囲の雪と一緒に外に出してしまうという事だった。
外に出すと凍りついてしまうので問題がないと……。便の最大の問題は雑菌だから、寒さで雑菌が繁殖しない。死滅してるのか一時凍結なのかわかんないけど、物理的な問題はなさそう。これ、お持ち帰りなのでは?と思ったけど、そう言うことは書いてなかった。雑菌処理(?)出来てるから、放置なのかな。
あと一歩、情報が欲しい。
『イヌイットは甘いものが大好きだ。紅茶やコーヒーも、スプーンで何杯も砂糖を入れて飲むことが多い。その代わり、辛いものや熱々のスープなどは苦手だ。』161p
これ、イヌイットだからではなくて『寒い場所だから』だと思う。寒いとそれだけでカロリーを使うから、高カロリーのものが欲しくなる。それが砂糖だっただけ。たしか、イギリスも紅茶やコーヒーに砂糖を大量に入れる文化があった。
そして、雪国暮らしの私も冬は濃い甘さが欲しくなる。油分も必要だけど、砂糖の甘さも必要。あと、寒い=日照時間が短いから鬱になりやすくて、そういう気分を晴らすのも『甘さ=砂糖』だとどこかで読んだ。
だったら、『辛いものや熱々のものでも』となるのかもしれないけど、熱いものは慣れてないと飲めない。私も猫舌で無理。辛いものは痛みなのでこちらも慣れが必要。……つまり、環境より『それに慣れてるかどうか』という要素な気がした。
『心が動く、だから冒険する。それでいい。やる前に四の五の言うな、やってみれば分かるから。それをエゴと呼ぶか矜持と呼ぶかは紙一重の差でしかない。』167p
冒険に意味はない……というの良いなと思う。意味がないからやる必要はないではなくて、心が動くからそれをする。かっこいいな。
『数が減っているホッキョクグマや、可愛らしいアザラシを獲るのはかわいそう、残酷だ、というような、全体も一部もまるで見ない、ただの感情論で発する意見はどこかで誰かを苦しめている。』214p
日本だと今年は『クマ』が問題になったけど、『かわいそう』『残酷』と言えるのは現実を知らない人間たちなんだよな。生きてるものを殺したくて殺す人はいない。
北極は寒くて、血抜きをしないらしいけど……そういう技術を伝えていくの大切。その地域ごとに必要な生きる術があるのだから。
『「やっぱり椅子って楽だな」』236p
冒険が終わって家の中の椅子に座った感想がこれだった。
椅子……椅子。私も、あまり座ったことがない。久しぶりに座ると背中が伸びるよね。椅子のない家だから、読書もこたつでしている。椅子に座るのは……病院に行った時の待合室くらいかな。おかげで猫背が治らない。いや。椅子でも猫背だったかもしれないけど。
『日常と非日常ではなく「たくさんの日常」を行き来できる人は、豊かな視点を持つことができるだろう。極地への旅は、私にとって日本とは違う日常を営ませてくれる体験だと言えるのだ。』266p
すべて日常……。確かにそうかも。そこにいたら『日常』になる。でも、『たくさんの日常』は……大変だなぁと思ってしまう。そんなに居住地を変えられる人は少なそう。そして、人は誰でも『自分と違う場所』は何か別な思考があるのでは?と思ってしまう。
雪が降る地域の人は冬が近づくと『スノータイヤに変えなければ』と思うのは日常だけど、雪が積もらない地域にいるとそんな思考にならないよね。そういう差異を他人は知りたいんだよ……とも思ってしまった。この本もいろいろ書いてあるけど、『そこが知りたい』みたいな話が少しずれて書いてある気がする。
『レストランが企業、シェフが広報、食材が私だ。(略)
私がやってきたことは、自分がどんな育ち方をしてきた椎茸であるか、それだけを正直に伝えてきただけだ。』285p
資金集めに苦労した話の部分。アポなしで企業に飛び込むと、受付で広報などに繋いでくれたけど、スポンサー企業はつかなかったという。ただ、個人的に応援してくれる人は増えたらしい。
中々なチャレンジャーだけど、私も似たような事をしたことがある。もちろん、結果は撃沈。若いってすごいよね。今は出来ない。私はここまでの情熱がなくて、結局上手く人とも繋がれなかったけど、でも、こういう感覚はわかる。やったから。読んでてワクワクしちゃった。私はここまでの情熱も自信もなかったから、中途半端に終わっちゃったけど、こういう自信があるのすごいなぁと思う。
『食材が食材の説明をしたんだ。あとはお前が上手く調理しろ』という投げ出し方も……すごい。そこは『金くれ。メリットはこうだよ』って説得するんじゃないのか。説明するだけして、『メリットはそっちで決めてくれ、メリットがあると思ったら金をくれ』というのがすごいんだよな。どうやって育てられたら、その『根拠なき自信』が手に入ったのか知りたい。
最後にしっかり家族と関係者への謝辞が入ってるのも、素敵。関係者への謝辞はよくあるけど、家族への感謝って日本人の本だとあまり見かけない。海外だと当たり前のように入ってることがあるけど。感覚が違うのかなぁと思ってしまう。……極地探検しちゃうような人が日本人の大多数と同じ思考を持ってるわけがないけど。独特というか、少し違うよねと思ってしまう点がこの本の中にはいくつかあるなと感じた。
素敵だった。ごちそうさまでした。
『考える脚』