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「肉を脱ぐ」を読んで

2025/12/04

肉を脱ぐ (単行本) 単行本(ソフトカバー) – 2023/11/1 李琴峰 (著)
肉を脱ぐ (単行本)

「肉を脱ぐ 作:李琴峰」を読んでみた。
……修行と思って読み終えた。この作品も嫌いだけど、昔の作品の方が数百倍マシだったのでは?と思ってしまうくらい、作風が変わってるような。

いや。最初に読んだ「言霊の幸う国で』よりはマシかな。……調べたらこの『肉~』も『言霊~』も芥川賞の後の作品だった。賞をとった後は作風をガラリと変えてしまったのだろうか。
『言霊~』が衝撃的過ぎて、その後に読んだ作品が大人しくみえたけどそこから成長してこれが『言霊~』に続くのねと思った作品だった。

『言霊~』の鱗片があちこちにあるような気がする。


つまり……気持ち悪い作品だった。

最初の『湯船に垢を擦り落としていくシーン』なんかも……よほど疲れてて湯舟の中で全て終わらせたいならそれもありかもしれないけど、『なんとなく』そうするのって精神的にいろいろアウトな状態だと思うから病院に行った方がと思ってしまった。

会社員をしながら小説を書いて、コネで雑誌に掲載してもらうという主人公も好きには慣れない。そういうのもあるんだろうけど、気持ち悪いキャラクターだなと思って読み進めた。コネ掲載なのに賞を狙ってるのも……それだけ図々しくないと賞なんて取れないんだろうけど、露骨すぎる。でも、その程度なら小説としてはアリだと思う。

後半、小説家として使っていたペンネームをVチューバ―も使っていて、そのVチューバ―が人気になりファンが『名前をパクった作家がいる』と指摘し始める。
今どきだなぁと思いながら読み進めたら、主人公がストーカー化して、職権乱用でVチューバ―の家を特定してしまう。
犯罪ものになるのか?と思ったけど、単に社内で処理されて終わった。主人公、本当に『危険なキャラ』だった。

一番ゾッとしたのは、同期の優香がネット上で『女性として生きていることが辛くない、そう思える世の中にしよう#国際女性デー』と呟いたら「お前は男だろ」「オスって怖い」などと言われていることを知って主人公が

『リプライを飛ばした人たちに攻撃の根拠を与え、ありもしない人物像を幻視させ、妄想させたのは、他でもない優香ちゃんの身体なのだ。』169p

と思ってる事。ストーカー化するほど、『肉体を持ってないふりをしている人間が許せない』と思ってた主人公が、『肉体を持っていることで誤解されてる人間』に同情して『誤解した人間を糾弾』し始めるの、何のギャグなの?ここは、『自分も同じようなことをして、勝手に誤解して勝手に相手に恐怖を与えていた』って気がつくところではないの? 自分への反省の視点を持たないの?

さらに『言葉の重みを知らない――あるいはそれこそが、私が作家として大成できないことの原因の一つかもしれない』173p
となってる。え?言葉の重み?作家として大成? それよりも、ストーカーして相手に恐怖を与えたことは何も思ってないの? すごい。ここまで主人公を『狂気の人』として書ききるのホント気持ち悪すぎる。


主人公の気持ち悪さがしっかり最後まで残る。後味悪い作品。

けど、私が一番気持ち悪いと思ったのは、『女性の生理に関する描写』
女性だって人それぞれで個人差があるとはいえ、それはないのでは?という描写が続くと……これは実は別の星が舞台で女性と書いてあるけど、女性とは違うものなのだろうかと思えてくる。

『それは初潮の時期とも重なっていた。(略)代わりにティッシュペーパーを何枚も重ねてパンツに挟んだ。ティッシュがずれおちたりしないよう、テープで固定した。三か月間、生理の間はそんな状態で過ごした。』15p

これはどんな設定なんだ。ティッシュをテープでパンツに固定して一日どうにかなる……わけないし、替えるとしたらテープをトイレに持ち込むのか?目立つぞ。
最初だけそうしたけど、次に替える時はテープを使わなかった? としても、血まみれティッシュはどうしたんだ?サニタリーボックスに捨てたの?ゴミ箱?
その状態で三か月間?? ……本当にどんな状況なのかさっぱりわからない。血まみれティッシュが見つかった時点でアウトだよ。なんで、ティッシュの端切れが落ちてバレたことになってるんだろう。ティッシュって意外と頑丈だから、千切れることはないと思う。むしろ、デリケートゾーンを擦って、皮膚が削られる可能性の方が高い。生理の流血ではんなくて、擦過傷の流血が起きて、お腹の痛みより股間の痛みに耐えられなくなると思う。
まだ、トイレットペーパーの方が肌に優しいし、突然すぎて用意がなかったら使っちゃう人いると思う。私もやった。緊急時でどうしようもない時はそうしたけど、耐久性はないからナプキンの方がいい。

と思って、台湾のトイレ事情をさぐったら……そもそもトイレットペーパーがついてないことも多いと出てきた。ポケットティッシュを携帯してる人が多いと。それか。そのせいでこの描写なのかも。お国柄か。
だったら、この小説設定も『日本っぽいけど日本ではない』と思って読まないとダメみたい。……もしかして、今までの違和感ってこういう『国が違う』という部分もあるのだろうか。台湾文化がわからないので、わからない。
そして、台湾のティッシュは生理の血液を受け止められるものなのだろうか?


『下腹部の鈍い痛みとともに、怠さが全身を覆った。胸が張っていて気持ち悪く、指で押すと痛かった。』15p

教科書に出てくるような女性描写で素晴らしいと思う。私が初潮になったころはそんな言語化できなかったし、胸が張るなんて意識したこともないけど……意識するものなのかな。

『性欲を感じる時はいつも安物のバイブで手早く済ませる。(略)女同士の性交は生物としての役割に寄与しないから、それをしたところで身体に屈従したことにはならない、などと自分なりに理屈をつけて、レズビアンの出会い系アプリで相手を募集してみたことがある。』46p

バイブは毎回消毒が必要だと思うけど、バイブが好きなキャラなのだろう。私は手指の方が楽。洗って爪だけ気を付けたらいいから。
この理屈でレズビアンと出会おうと思うの安直すぎると思う。さらに主人公はこの後、募集してラブホテルで会う約束をするが、すっぽかされることになる。
……ネットで出会う人が『良い人』とは限らないし、女のふりをして男が待ってる可能性だってある。だから、ビアン同士が合うときは『写真』『声』で一応確認する。この辺りで『男っぽい特徴(声が低めなど)』を持ってる人たちは振り落とされる。だから、男っぽい特徴を持ってる人ほど『会えないんだよね~』と愚痴るけど、女の子はそれくらい慎重なのが当たり前だよね~ともなる。
もっと慎重なサークルなんかは『身分証の提示』が求められることもある。

いきなり『初回ラブホで会う』なんて暴挙に出る女の子は……もの知らずか、やけっぱちになってる女の子か、ガタイが良くて格闘技をしてて男が来てもやり合えるくらいの自信がある女かな。普通の女の子はしない。仮に初回ラブホと言われたら、「相手は男」と判断してこの物語みたいに思わせぶりなことを書いてからかうことはあるかもしれない。つまり、この小説の主人公は自分でNG行動をしておきながら、『からかわれた被害者』としか認識してないし、その認識で終わってる。え。それだけ?と思ってしまった。その世界、そういうのアウトだよ。相手が普通の女の子なら尚更。むしろ、『男が来なかったことに安堵』していい。


『下着が濡れていくひんやりとした感触とべたつく感触がしていて気持ち悪い。そろそろおりものシートをつけないといけない、そう思ったものの、身体が重くて起き上がれない。』107p

下着が濡れてべたつく感触って、血まみれになってるってこと?? おりものシートではなくて生理用ナプキンだよね?というか、下着が濡れてるなら下着を替えるのが先では?
それとも、これがおりものの描写なの? でも、下着が濡れてるって思ったら、下着替えるよ。
AI君に台湾ではおりものシートと生理用ナプキンの使用はどんな時にするのかと聞いてしまった。日本と大差ないらしい。……ということは、この描写ならナプキンだよね? おりものシートが出てくる余裕、どこにあるの?


『やはり吸血鬼のなり損ないも生身の人間なのだ。(略)私と同様、自分の意思とは関係なしに毎月せっせと受精の準備をし、股の間から血が出るだろう。』128p

自分のペンネームと同じ名前のVチューバ―に主人公が思う事……。他人の股事情なんて考えたくもないし、考えたこともないんだけど。自分の肉体を嫌悪するのはまだわかるけど、他人の肉体についてうだうだ言い始めたら、『自分の身体に勝手な評価を付けている他者』と同じことをしてるだけなんだがと思ってしまった。
そして、女だからこそ他人の生理は絶対触れないと思う。そこに触れるクレージー主人公。狂気っぷりがすごい。


他にもチラホラあったけど、ウンザリしたので読み流してしまった。


主人公の生理に対する執着、怖すぎる。女性が『子どもがいるかいないか』という点で狂う物語はあるけど、生理でこれだけ狂う物語は本当に怖い。

勝手にレッテル張って、勝手にストーカーして、それに反省もしないで『自分も肉を脱いで脱皮して新しい自分になる』と言い張る主人公はホラーにピッタリだと思った。本当に怖かった。

ごちそうさまでした。

肉を脱ぐ