編集

「ジェロニモ」を読んで

2025/07/20

ジェロニモ 単行本 – 1995/12/10
フォレスト カーター (著), Forest Carter (原名), 和田 穹男 (翻訳)

ジェロニモ

「ジェロニモ 著:フォレスト・カーター 訳:和田穹男」を読んでみた。

リトル・トニー」に続いて、同じ作者のインディアンの物語。こちらは時代がさらにさかのぼって、アメリカやメキシコと戦っている時代。

ジェロニモについてはしっかり調べてあるようで大まかな流れは間違ってないらしい。あとは上手く大衆受けする様にラッピングされている。基本的に、歴史と戦いなので読んでいて楽しい。『リトル・トニー』と同じくこれを「インディアンの物語」として読むのは危険だと思う。

気になった部分。
『「どうだい! もうわしはあんたらみたいに走らんですむぞ! この壁の上でのんびり休ませてもらうわ」冗談が受けないので、老人はきまり悪げに笑った。』34p
敵の足止め役になる老人の言葉。待ち受けてるのは死なので、走らなくていい……のだとして、インディアンがこんな冗談を言うのだろうか?と思ってしまった。アメリカ的ジョークにみえるけど、インディアンにもこれが冗談として通じる文化があったのだろうか。

『ジェロニモが低い声で歌いはじめた。(略)もしも、危険が遠のきつつあるのなら、そのリズムはもっと間のびし、ゆるやかなものになるはずだ。』80-81p
低い声に植物たちが応えていき、それが張り詰めたものになっていくから敵が来たと理解するシーン。
超人すぎる。この辺りは創作では?それとも、そういう伝承みたいなものがあったのか。鳥の鳴き声や動物たちの動きから知るという方が現実的。そういうシーンもある。

『インディオは理性など持っていないから、聖体拝領や堅信礼を行っても無駄だった。何人かのインディオに洗礼を施し、原罪を洗い清めようとしたこともあった。だが彼らはあいかわらず道をはずれた者たちだ。』141p
白人神父の心の中のシーン。この物語、メインはジェロニモだけど、ジェロニモが戦った相手である白人視点のシーンもかなりある。そして、白人視点のシーンの方がリアルさを感じる。インディオには理性がない。自分たちと同じ人間ではないという気持ちがこれでもかと書きなぐられていて、差別主義者の視点がよくわかる物語になっている。
対して、主人公であるジェロニモの心情は半分理解出来たらいい方で、ほとんど書かれてないのでなぜこの行動をしているのかを理解していくのが大変。

『白人世界にあっては、人々は物質的な生活の発展のためには有用だが、精神の「偉大な力」の発達にとってはあまり役に立たない物理化学を妄信するにいたっている。(略)世界も理解することも支配することもできないと、人々は世界を物質的価値によってのみ解釈し、ほかのすべては退けてしまうのだ。』207p
白人世界というよりも文明の発達がそうなってるという事だと思う。この後にはアパッチ(インディオ)賛美のような文章が続く。対比させたいのかもしれないけどこういう中途半端な賛美も胡散臭い感じしかしない。

『ジェロニモは白人の経済のしくみをすぐに学びとった。彼は勤勉で金のやりくりがうまく、抜けめのない取引をやった。』353-354p
ジェロニモは最後は投降して、保留地で家族と過ごす。
でも、なぜ投降したのかがよくわからない。そういう運命だったみたいなことになってるけど……いや。わからん。いっそのこと潔く『自分の命は惜しかった』と言ってくれた方がマシだ。

この辺りの言い訳を『パワー(力)』がそう言っているで済ませてるので、パワーってそんな都合がいい存在なのか?と首をかしげたくなってしまう。
物語としてはこの流れが都合がいいけれど、本当にそれがインディアンの価値観なのだろうか。物語として『そうした方が盛り上がる』という気もするので、わからない。


ジェロニモの経歴は資料を基にしてるらしいので、物語の大筋は『おそらく事実』なのかもしれないけど、細かい部分になると途端に『作りがいい』ので怪しい。

そして、インディアンの物語というよりも、差別主義者の考え方の方が生々しいので、そちらの方が理解しやすかった。人間だと思っていないとはどういうことなのかが何度も繰り返し出てくる。インディアンは行為が残虐な時はあるけど、心情はかなり穏やかで争いは好まない。対して、白人たちは行為も心情もかなりエグイ。これは作者がそちら寄りの思想だったせいだろうか。

インディアン(「ゴヤスレイ・あくびをする者」)とアメリカ・メキシコの戦いの概要みたいなのはざっくり掴めた。
入植者はこうやって土地を奪っていくという歴史の話として読めば、面白い。そして、こういう形はイスラエルの問題なんかも類似構造があるような気がするなと思って読んでみた。インディアンは過ぎてしまった時代だけど、イスラエルは現代だし、問題はもっと複雑化してる。歴史はあちこちで繰り返されるのかも。

ごちそうさまでした。


ジェロニモ