ライ麦畑でつかまえて (白水Uブックス 51) 新書
– 1984/5/20
J.D.サリンジャー (著), 野崎 孝 (翻訳)
「ライ麦畑でつかまえて 作:J.D.サリンジャー 訳:野崎孝」を読んでみた。
問題作と言われた作品……という事で読んでみた。
図書館で借りたけど、コーティングされてない古い本。コーティングされてないので本の端がボロボロで年季が入っている。
主人公は16歳。禁煙中。たぶん、この辺りが問題作になったのかなと思う。煙草を何箱も吸う、酒も飲む……現代で考えても、こういうのはありえないだろうけど。
この作品は『大人が子供にたばこを勧める』ので、そういう世界なんだろうなーと思ってしまった。お酒はさすがに『未成年に見えるから出せない』とちゃんと言うお店も出てくる。意外とまとも。
この物語は『退学になって学校を出ることになった。まだ、学校にいても良かったけど、やけになった主人公は学校を飛び出し、家にも帰り辛くて町で三日間ほど過ごす』という三日間にあった話。酒飲んで、女を呼び出して、デートして……ふられて、友人と飲んでみたけど、気が合わず、飲み過ぎてべろんべろんになって、家に帰って妹に会う。妹に説得されて、家に帰るというのが大まかな流れ。
最初は『学校を退学になる』シーンから始まるので、何をしたんだ?と思ったけど、『単位をほぼ落とした』からという理由での退学だった。成績が足りないから退学。ただ、これもこの主人公の『ひねくれた部分』が出ていて、「あんなのろくなものじゃない」という理由で授業に出なかったものがあると後からわかる。
主人公は大酒呑みでヘビースモーカー。でも、童貞で『女の子が嫌がっていたらやめる』という紳士的な部分がある。ただこの時代なので、それは「いくじなし」という後ろめたさに変換されている。性的な被害も受けていて、性への嫌悪も隠れているような気がする。
気になった部分。
「前の年の夏、性的交渉を持ったと称する女の子のことをしゃべるんだよ。(略)あいつが童貞でなくて、誰が童貞なもんか。おいじりだってやったことがあるかどうかあやしいもんだ。」56-57p
性的な話がちらちら出てきたなと思った部分。でも言葉は選んであるし、青春の微笑ましい話題だなと思う程度。こういうのがずっと続くので、可愛いなぁと思ってしまう。羽目を外すシーンもあるけど、この時代の『いいところの坊ちゃん』はこんな感じだったのかなという程度のものだった。
「男娼みたいな男がニ、三人と、淫売みたいな女がニ、三人いるだけで、ロビーはほとんどからっぽだった。」100p
これも中々な言葉だなと思ったけど、時代を考えればこういうのが当たり前だったのだろうなと。
この後、お酒を頼むシーンがあったけど21歳以下に見られて、結局お酒は頼めなかったのでコーラを頼むことにしている。ちゃんとした大人はお酒を子供に出さないっていうまともな世界……と一瞬思った。
でも『上流階級のホテル』だったから断られただけで、その後お酒を出してくる店も現れる。おそらく、店のランクが下がっているのかなと思うけど……背景がよくわからない。
「親たちは子供に目もくれない。そして子供は「ライ麦畑でつかまえて」って歌いながら、縁石のすぐそばを歩いていく。」163p
ライ麦畑が出てこない……と思っていたら、歌だったのか。と、ここで初めてわかった。……どんな歌なの?こどもが歌うようなもの?
「今度戦争があったら、僕は原子爆弾のてっぺんに乗っかってやるよ。自分から志願してやってやる。」197p
原子爆弾……こんなところで、出てくるのかと思ってしまった。戦争映画を見て、戦争の事をあれこれ思いながら主人公が最後に原子爆弾に乗って戦ってやるって思ったということだけど。……アメリカ人ならこの感覚なのだろうな。
「「それは『ライ麦畑で会うならば』っていうのよ!」とフィービーが言った。「あれは詩なのよ。ロバート・バーンズの」」242p
詩なの?しかも「会うならば」って意味が違ってきてる。主人公の都合がいい解釈で「つかまえて」になったという事?
「先生が何をしてたかというと、真暗な中で、寝椅子のすぐそばの床の上に座って、僕の頭を、いじるっていうか、撫でるっていうか、そんなようなことをしてたんだ。」268p
信用してた先生が、気が付いたら寝てる主人公の頭を撫ぜていて、主人公が嫌悪感に飛び上がるシーン。最初は何をしてるのかよくわからなくて、理解できた時には先生の家を出る決心をする。こういうことが今までにも二十回ほどあったとあった。
ここまで、『嫌がる相手に無理強いをしない』のは主人公が紳士だからかなと思ったけど、たぶん逆で『自分が受けた性暴力を思い出してそれ以上踏み込めない』が正しいのかなと思ってしまった。そういう嫌悪感というか、ゾッとする感じが現れてて読んでいてぞわぞわしてしまった。
「僕は、気が狂いそうなほど腹の立つものを見ちゃったんだよ。誰かが壁に「オマンコシヨウ」って書いてあるんだな。これには頭にきちゃったね。」280p
これ、訳が訳がすごい汚い。汚いから気持ち悪さも伝わりやすいし、理解しやすい。
大人の世界の複雑さもわかりつつ、わかりたくない思いというかそういう思春期の気持ちの揺らぎが丁寧に書かれている。
性的なものについても、扱いが露骨だけど雑ではないのがいいなと思った。むしろ、性の問題点については押さえてある感じなのがいい。子供が見る場所に落書するな。無理やり押し倒すなって言うポイントは重要だと思う。
酒たばこについては……かなりフリーダムだけど、現代日本で子供がこんなに楽に酒たばこにアクセスは出来ないので逆にファンタジーに見えてしまう。日本も昔はこれくらい緩かった時もあったけど、今は無理。
個人的にはこの作品は好き。子供にお勧めは出来ないけど、大人が読むには問題ない。
ごちそうさまでした。
村上春樹訳の『キャッチャー・イン・ザ・ライ』も借りてみたので、比べてみる。
村上春樹は嫌いだけど『訳の違い』を読み比べてみたかった。