砂糖の世界史 (岩波ジュニア新書 276) – 1996/7/22 川北 稔 (著)
「砂糖の世界史 著:川北稔」を読んでみた。
砂糖を軸に『世界の歴史』が書かれている。
プロローグでほぼ本の内容をざっと書いてある。これがあるので、『これから何を読むのか』がわかりやすくて、ワクワクした。
第1章 ヨーロッパの砂糖はどこから来たのか
砂糖の原料、サトウキビの原産地は不明だけれど、インドネシアのどこか……となっている。イスラム教徒がそれを広げ、同時に奴隷のような労働力も必要とされていたのではないか……という仮定の話が多め。文献がないとかそういう意味かな。
ヨーロッパ地方がサトウキビ栽培もするようになったのは11世紀末ごろ…17世紀にはヨーロッパの国々が植民地で奴隷を使って砂糖を作るようになった……という話がサクサクと書かれている。サクサクと書かれているけれど、同じことが何度か繰り返し書かれているので、頭に入りやすい。
第2章 カリブ海と砂糖
1章の話を受けて、『カリブ海』に焦点をあてて書かれている。カリブ海の砂糖プランテーション(農園)にアフリカの黒人たちを連れてきて、労働力にした。そして、そこのお砂糖はヨーロッパに売られる。現地にいた人たちは絶滅したという話が書いてある。
「ルーツ」の奴隷の話はアメリカ行きだったけど船にぎゅうぎゅう詰めにされて、劣悪な環境で死者も多かったという事が書かれていた。それと同じだなと思いながら読んだ。
『世界商品』になった綿やコーヒーなども同じようなものだったとある。
第3章 砂糖と茶の遭遇
紅茶にお砂糖が入れられるようになったのは……どちらもステータスシンボルだったからではという話。
美味しくなるとか、そういう話ではなかったのは驚き。女の服にレースを付けるのと一緒? 女も男にとってのステータスシンボルで、そのシンボルを飾り付けるのもステータスになるっていうのがあったような。(最初は男性自身が着飾っていたらしいけど、女性に移っていったというのをどこかで見たような)
第4章 コーヒー・ハウスがはぐくんだ近代文化
イギリスでは喫茶店のようなコーヒー・ハウスが流行した時代があるという話。
そこではお茶にコーヒー、場合によってはお酒も出て社交の場となっていたけれど、それは『階級を気にしない時代』だった一時だけで、あっという間に廃れた。
そこで、お砂糖も扱っていた。お砂糖は薬としても使われていた……と言う話も入ってくるけど、あれだけカロリーが高ければ『カロリー摂取が難しい時代』においては万能薬だったろうという身も蓋もない話。
時代と砂糖の相性が一致したという話が書かれている。
第5章 茶・コーヒー・チョコレート
チョコレートは固形ではなくて、飲み物。茶・コーヒー・チョコレートのどれもが砂糖を入れて飲んでいたという話。
コーヒーもチョコレートも砂糖と同じく、プランテーションが作られるようになって奴隷たちに作らせていたという事も書かれている。
そして、この『チョコレート』の原料のカカオは現代においても、児童労働が問題視されてるのよね。近年は児童労働を行っている農園からは買い取らない……というような大手企業もいるけれど、どこまでチェックができるかは問題視されてるというのを、他の記事で読んだ。子供を雇うというのも、賃金を安く済ませて少しでも利益を上げたい=正常な取引がされてなくて買い叩かれている。という事が今も続いているからなのだろうなとこの本を読んで思った。
第6章 「砂糖のあるところに、奴隷あり」
イギリスの富と発展を支えていたのは植民地の奴隷たちということが書かれている。けれど、奴隷に反対する人も出てきて、奴隷制度は撤廃されていく流れになる。
奴隷制はそう簡単に無くならなかったという事も書かれてる。
そういえば、アメリカの奴隷制撤廃のための南北戦争は有名だけど、それ以外の国は知らなかったと思った。ヨーロッパの国は奴隷の取り合いのような事をしてたのだから、どの国にも奴隷がいたんだな……。
第7章 イギリス風の朝食と「お茶の休み」―労働者のお茶―
上流階級のものだったお茶と砂糖が労働階級にまで広がったという話。そして、世界では日本のように主食とおかずを分けて考えることはないということも……なるほど。海外ドラマだと食事って結構手軽で簡単なものなのはそういう意味なのかと思った。
そして、時間の概念も変わった事が書かれていた。農業だとお日様次第。お天気次第だった作業が工場だと『時計に合わせて動く』事が要求されて、一週間もきっちりしている。
職人はほぼ酒を飲みながら仕事をしてた……というような感じの話だし、農業も雨が降ったら作業がなかったみたいなことになってるけど。
職人はともかく、農業は『雨の日も内職』しないとやっていけなかったのでは?と思う。ヨーロッパの方はわからないけど、日本においての農村はかなり厳しかったらしいので時計に合わせて働くではなくて、『少しでも明るければ働く』ので日が昇る前から作業して、陽が沈んでも内職に励む……みたいな感じだと思う。
『あゝ、野麦峠』にその辺りが書いてあるというので、そちらを読みたい。家にあったと聞いたので探してみたけど、見当たらず図書館で借りよう。
第8章 奴隷と砂糖をめぐる政治
この章が意外と面白かった。労働者の朝食の値段を下げるために、奴隷制度を廃止させて、関税撤廃して『安い海外製の砂糖』を入れることに。するとイギリスの砂糖は競争力を失ったとある。『人件費ゼロ』の奴隷を使って他の国は安く売りだしているのに、イギリスは奴隷は使えなくなったので、何とか安い人件費で雇って作るようにしたけど『人件費ゼロ』の海外には太刀打ちできなかった。
人件費ゼロってそれ『正規価格』ではないから、狂ってるのよね。
そして、イギリスは砂糖の生産者が減ったとなってた。日本も同じ流れですね。
第9章 砂糖きびの旅の終わり ―ビートの挑戦―
現代になると、サトウキビではなくてビートでも砂糖が作れるとわかって挑戦したけど、かなりコストがかかることが分かり結局サトウキビに戻りつつあるという事が書かれていた。
そして現代は『カロリー過多』になりつつあるので、砂糖は売れない方向になるかもしれないとも……。それでも、餓死者がいる地域もあるので『アンバランスな世界』になっているという事も書いてある。
そして、世界初の黒人独立の国ハイチは現代において再貧困の国になっていることも。
歪みはいまだに残っていると書いてあった。
こういうの日本のバナナも同じだった。フィリピンバナナ……も安く買い叩いてたけど、安すぎると苦情が来て値上げしたというのが2022年に話題になっていた。
奴隷を使ってなくても、中身は似たようなものというのが他にもある。
少し気になった部分。
本の中では『(砂糖や米に)関税を高くかける』ことが過保護だとなってたけど、これ自国の産業を守るためには必須だし、『他国に安く売るために資源を取りつくす』『労働力搾取してまで安くする』ことも防げるので過保護ではないと思うのよね。
ここまで散々、『土地を破壊し、文化を奪い、労働力搾取をして、世界に売りつけた最悪の商品』の話を本に書いてたと思ったけど……『歴史』しかみてないんだなと冷めてしまった。
もちろん、工業労働者にとっては『安い方がいい』のはそうなのだろうけど、『自国民の食糧を他国任せにする』と『他国で何かあった時。もしくは他国が団結して輸出禁止』をした場合に自国が死ぬ。そういうのを防ぐためにも『自国にある食糧・畜産物』は関税高めにしたほうがいい。
昔は「過保護」と日本では言われてたし、この著者もそういう情報を鵜呑みにしただけなのかな。あと、「国際競争力」というけど、農作物・畜産物・海産物でそれを競うと悲惨なことにしかならないので、競わせるな……と思ってしまう。
例外は『ブランド品』を作って「高く売る」ことだけど、これもそう簡単ではない。そして、そんな高級品にしても売れるなら関税が高くても売れるだろうと思うんだけど。地産地消を基本に一次産業は保護した方が全体が潤うというのが先進国のやり方になってるらしいけど、日本は真逆。
歴史は楽しく読めたのに、経済の話になるとなんだかな……と最後に思ってしまった。
それでも、ざっと流れを知るにはちょうどいい本。