押絵と旅する男 (立東舎 乙女の本棚) – 2017/12/13 江戸川 乱歩 (著), しきみ (著)
「押絵と旅する男 作:江戸川乱歩 絵:しきみ」を読んでみた。
図書館で、展示スペースにあった本が気になって借りてみた。
イラストは現代風の可愛い系のイラスト。物語は明治28年から約30年後が舞台。昭和になってるかどうかという感じ。古風な世界観がすごくいい。
最初は『魚津の蜃気楼を見に行った』とある。これ、ラストのあたりで「東京から富山に引っ込んだ」とあるけど、魚津が富山県だとわからないと結びつかないのでは?と思ってしまった。
そして、蜃気楼の描写が……なんていうかすごい的確というか正確というか、そうなのよ『よくわからないモヤッとしたもの』が蜃気楼なんだよね。だから、普段見ていない人が見ても正直『それが蜃気楼』だと気が付かないことも多々ある。たぶん、私も言われないとわからない蜃気楼が沢山ある。写真になってるのは『はっきりと分かりやすいもの』が出てくるけど、その写真は本当に『初心者にもわかりやすい説明用』で本物はもっと『わからん』というのが正しい。
そのわからなさを言葉で長々と表現してあるのすごい。
『蜃気楼は、不思議にも、それと見る者との距離が非常に曖昧なのだ。遠くの海上漂う大入道のようでもあり、(略)見る者の角膜の表面に、ポッツリと浮んだ、一点の曇りの様にさえ感じられた。』08p
最初の蜃気楼の表現で心を鷲掴みにされた。
そこからどう話が続くのかと言えば、列車の中で不思議な老人と出会い、『絵の額』を見せてもらい、その絵の身の上話を聞く……という不思議続きの物語。
特にこれといった大きなことは起こらないけど、『小さな不思議』が続くのでぐいぐい惹きつけられていく。
何でそうなったのかがさっぱりわからないけど、『そういう世界なんだな』という共通認識が徐々に広がって『そういう物語』だと納得してしまうような感じ。
そしてラストは、老人が闇に溶けて終わる。……こういうのは、ある意味定番のような気がするけど、でもここまでが小さな不思議とゾッとする感じの世界観が広がってるので、やっぱりと思いながらも、ゾッとする感覚も残ってる。
たぶん、細かく見たらテクニックがあちこちにちりばめられてるんだろうけど……そういうの考えたくない。このまま受け取って『ゾッとしたい』ので、私はそう読む。
この本、イラストと名作の融合だけど、正直、この絵柄でこの作品は合わないなぁと思ってしまった。でも、興味のない人が名作を手に取るにはちょうどいいのだろうし、私も手に取ってしまったので、やられたなとも思う。
うーん。でも、個人的にはもっと雰囲気ある絵が見たい。文字だけでも充分引き込まれたので、文字だけでもいいんだよな。
最後に『※本書には、現在の観点から見ると差別用語と取られかねない表現が含まれていますが、原文の歴史性を考慮してそのままとしました。』と注意書きがある。
引き込まれてしまってその点がどこなのか気が付けなかったので読み直した。
『外国船の船長の持物だったという奴を、横浜の支那人町の、へんてこな道具屋の店先で』33p
この辺りの『支那』がアウトなのだろうか。外国船の船長が持ってたものを高い金で売りつけてきた……怪しい奴みたいな感じに読めるのは差別に入りそう。
惨殺されてる支那人の見世物人形もそういう差別的意味合いの人形ってことだろうか?
そして、この部分しかわからなかった。他にあったのだろうか。
この「乙女の本棚」シリーズ、面白そうなので図書館にあるのだけでも借りてみようかなと思う。手に取りやすさ(絵が挟まってると、小休止になる)が丁度いい。
ごちそうさまでした。