WEB小説「マリンチェ―裏切りの花嫁― 作:なつの真波」を読み直した。
約10万字の作品。一ページが三千文字前後なので読みやすい……一ページが長いと疲れてしまう私にはちょうどいい。
アステカ帝国の奴隷マリンチェの物語。
随分前に何かでマリンチェの事を読んだような……という、とても薄っすらとした記憶だけしかなかったけど、物語は面白い。
アステカ(マヤ)の生贄の儀式に、戦のルール。異文化との接触と滅びゆく国の姿。
なにより、キャラクターたちに説得力がある。「部下ー」と呼び捨てるコルテスのキャラが一番面白くて人間臭い。
もちろん、主人公のマリンチェも魅力あるキャラになっている。土地を裏切る迷いと決心。揺れる心が丁寧に描かれている。マリンチェの相手役のアギラールの潔癖さも好き。
ただ、やっぱり『生贄』の感覚は掴めない。この物語では『当たり前』と言いながら、『生贄はない方がいい』となっている。もちろん、葛藤はあるけどその葛藤が『神を裏切る』事と、『死んでしまう恐怖』の間でのことになってるので……現代っぽい気がしてしまう。もちろん『死の恐怖』は生き物である限りあるのだけど、『生贄になっていない者』がそれを信じているかは別な気もする。
『死の直前に感じる恐怖』と、『生きている間に想像する死』ってかなりの乖離があって『儀式の直前に恐怖によってパニックになる』という事はあっても、それって生贄が感じる恐怖で『観衆』はそれを感じることはないような……と考えると、マリンチェの葛藤ってどうなのかなとも(いや。そこに葛藤がないと、物語が進まないのはわかるけど)
さらに『生贄を捧げなくても夜が明けた』って事は『神の存在は嘘だった』っていう神への疑心にもなりかねないのに、そこの部分も『生贄は必要なかった』で終わってるのもどうかなって思う。
信仰ってそれが壊された時に自分の中の『それまで信じてたもの』も破壊しかねないだけの威力がありそうなのに、この物語だとその辺りが薄いのも気になる。でも、こういうのは個人差の範囲内かな。
細かく考えるとキリはないけど、物語は面白いのでお勧め。
アステカの雰囲気満載でエキゾチック(という言葉であってるの?)な感じも好き。
ただ、ラストが少し駆け足な感じがしたことだけが残念。
もう一度アタック……をどうやって成し遂げたのかを読んでみたかった。