100回泣くこと (小学館文庫) – 2007/11/6中村 航 (著)
「100回泣くこと 著:中村航」を読んでみた。
この本が薄かったからと『中村航』という作家が書く作品を読んでみたかったという二つの理由で図書館で借りてみた。
小説投稿サイト「ステキブンゲイ」の運営に関わっているらしいと書いてあったので、どんな作品を書く人なのだろうと思って読んでみた。
ただし、恋愛系……のようだという情報も得ていたので期待値は低かった。
低くした期待値のおかげで『思ったよりは素敵』だったが、私の好みとは外れている。
なんだか偉そうだけど、それが感想。
ここからはあらすじも含めて、細かく感想を書いていく。
第一章 犬とバイク
犬が死にそう……という、重たい物語の導入部分。死が迫っているかもしれないと思うと、ワクワクしてしまうので、『引き』はすごいなと思った。
彼女さんに犬の話をしてバイクの整備をすることになる。バイク整備の話が細かい。
……まったく興味ないし、よくわからない部品単語を書き連ねられても苦痛。と思いながら読んだ。
ただ、逆に好きな人には、ものすごくたまらないシーンなのかもしれないとは思う。
主人公がバイク好きなのでそうなるのは分かるけど、文章が淡々とし過ぎていて『好き』が「長く書かれているから」という点で読むしかないのかなと。
初手で私の感覚は引き離されてしまった。
引き寄せて読む必要はないけど、グイっと『お前は読者対象じゃないんだよ』みたいな感じを受けたというか。
主人公が男性と言う点もあるのかもしれない。
恋人も整備に加わって、二人仲良く「結婚の約束」をする。
引き離されてしまったけど、結婚の約束の時の「夜景の見えるレストランで告白されたら断る」というのは何となく共感できてしまった。
この作品の中でこの部分だけ、『分かる』と頷けた。
第二章 スケッチブック
犬に愛に実家に帰ると、意外と犬は元気。
彼女さんと同棲を始める。彼女さんがスケッチブックにいろいろと描く。ほのぼのしたシーンが続く。
ここで初めて主人公の名前が出てきた……ような。名前、出てこないままかと思っていた。
彼女さんの独特の感性は好き。同棲もお金や家事の分担を決めていて、いいなと思った。ただ、給料の差や共通の通帳に振り込む生活費の負担割合などは書かれてないので、給料の差がない事になってるのかなと思った。そこにリアリティ持たせても仕方がないからだろうけど。
同棲のエピソードがふんわりしていて、バイクの話と違って重さがないなと思ってしまったというだけ。
第三章 開かない箱
彼女さんが体調を崩して、実家に戻る。実はがんで……という物語になってしまったところで、なんだ恋人が死ぬパターンの話かと興ざめしてしまった。
犬が死ぬのはいいけど、恋人が死ぬのは冷めるのはなぜだろう。
結婚前に死んだので、いろんな手続きもしなくていいしよかったね……と思ってしまう私はきっと鬼畜だ。
なぜ主人公は「結婚しよう」と言わなかったのだろうかとも思う。
「死が二人を分かつまで」と同棲の時に誓い合った言葉が、本当にただの「おままごと」でしかない。
主人公が悩むのは「彼女のために出来ることは何か」という点だ。そこに「結婚」が含まれていない事が不思議だ。もし、拒絶されたというのであっても、そのようなシーンが入っていてもいい。しかし、書いてあるのは彼女の病状と、主人公の苛立ちだけ。
なんとも綺麗な物語である。綺麗すぎて気持ち悪い。
第四章 箱の中身
彼女が死んだ後に酒におぼれた主人公の話。犬も死んで主人公は彼女の事も弔う。
主人公が酒におぼれて死んだ話を読みたかったと思う私は(……以下同文)
作品の中に『現実的なモノ』はないが『現実の情報』として現実に繋がるものはたくさんある。
情報の羅列を読まされた気分にしかなれない。バイクの部品やがんの治療法に詳しくなりたいわけじゃないんだが。
彼女さんだって『綺麗で可愛く、物分かりよく、ただ病気でやせ衰えていった』なんて理想の病人なわけがないわけで。
やせ衰えていく姿を見せたくないから『二度と来るな』というシーンがあってもいいし、『他に素敵な彼女を作って、自分とは別れろ』と迫るシーンがあってもいい気がするがそのようなものは出てこない。淡々と病状だけが書かれてる。
医者ではないので、正直、そんな情報要らないと思いながら読んでしまった。
綺麗なモノには毒がある。という物語を私は読みたい。小さな毒でもいい。淡々と平和な話を『死』でコーティングして『可愛そうな話』にしてしまうような物語は要らない。
あと数冊同じ作家さんのモノを読んでみようかな……と思っていたけど。
合わない作品を延々読む苦痛を味わう必要はないと思ったので、やめた。村上春樹と貴志祐介はもう少し読めばわかるか……と思ったけど、結局どの作品も合わないということが分かっただけだったので、『合わない』ものは合わないと思って切り捨てよう。男にとっての女の理想を語る物語はもう要らない。