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「アンダーグラウンド」を読んで

2024/02/28

アンダーグラウンド – 1999/2/3 村上 春樹 (著)

「アンダーグラウンド 著:村上春樹」を読んでみた。
これ700p越えの分厚い本なので、読むのが大変だった。でも、図書館で借りた本なので意地でも一週間で読んだ。一日約100p。

重いし、中身は二段になっていて文字がぎっしりでさすがに疲れた。



まず、本の内容とは関係がないけど、この本を手にした経緯。

この本は町の図書館の書庫に入っているという事が検索で分かっていたので、図書館職員に言って取り出してきてもらった。

図書館でパラパラとページをめくってみると『目次』に『はじめに』という項目があるのに、目次が終わってすぐに『千代田線』というページになっていた。ページ数を見ても明らかに抜けている。迷ったけど、職員さんに言ってみた。


「予約にして他の図書館から取り寄せますね」

と言われてしまった。そんなにおおごとにする気はなかったのに……。でも仕方ないので、予約する。
その場では『アンダーグラウンド2 約束された場所で』も借りる予定だったけど、足りないかもと思い『差別の日本史』も借りる事に。
三日後に図書館から連絡が来たので、『差別の日本史』を返して、『アンダーグラウンド』を受け取ってきた。


県立図書館からの取り寄せだった。県立図書館……どこにあるんだろうか。知らない図書館にあった本。


という事で、手に入れた700p越えの『アンダーグラウンド』
分厚過ぎて辞書にしか見えない。
一週間で読む羽目になったのは、二週間で返す予定の4日間が取り寄せで潰れたから。一週間で読んで二日間でもう一冊の残りを。一日で感想をという計画で頑張って読みつくした。


中身は『地下鉄サリン事件の被害者へのインタビュー』が書き連ねられている。

サリン事件当時、私は小学6年だった。世間のニュースにそこまで興味はなかったが、連日このニュースをやっていたので記憶にしっかりと残っている。ただし、詳しい事まではそこまで理解はしていなかった。地繋事件前はオウム真理教はマスコミによく出ていた……なんて事は一切記憶にないが、そういう人たちがいるのでそうなのかという程度。

二つ上の従姉妹が修学旅行から帰って来て、「修学旅行の思い出は麻原が捕まった事」と言っていたのも覚えてる。それくらいには子供でも記憶に残る事件だった。

松本サリン事件なども当時は一切記憶にない。後から、こういう事があった……というのをテレビで時々やっているのを見て、そうだったのかと。今、話題の統一教会の件に至っては、30年以上前はこうだったというのを見かけるが30年前小学生だった私は、全くしらないなとしか思えない。


被害者たちの当日の状況は同じようなものが繰り返される。

・咳をする人が多いなという違和感
・やがて自分も咳が出たり、鼻水や涙が止まらなくなる。
・それでも、仕事に行こうとする。
・テレビでサリン(毒ガス)という情報が出て、病院に行く。

大半がこんな感じ。中には途中で倒れたというものや、大丈夫だったから家に帰ってから病院に行った。などもある。
軽症だったから、周囲の人の救護作業をしていたというのもある。
そして、その救護をしたために症状が重くなったという人も。

多少の差異はあるが、当日の状況についてはそれほど大きく違う事はない。
ただ、『パニック』と『サリンによる記憶障害』によって、それぞれの人の話が食い違っているというものもある。でも、それらも許容範囲だろうなと思う。

知りたいのは正しい事実ではなくて、その場の状況と空気感がざっくりと分かればいいからだ。


大半が……というか全て『通勤中(研修先へ行く途中など仕事関連)』というのも、怖いくらい統一されている。
仕事以外の予定だったなんてものはない。時間帯を考えるとそうなるのは分かるが、なんというかその統一された行動様式のようなものには気持ち悪さを感じた。


そして、それとは違ってサリン被害後の職場の対応というのはそれぞれ少しずつ違う。

もちろん個人個人の症状の重さが違うというのとPTSDの重さの違いなどもあるが、職場によっては一年以上も配慮してくれるところもあれば、一週間で復帰してその後も頭痛に耐えて仕事をしているという人もいる。または、耐えられずに退職を選ぶ人もいる。

サリン被害にあう事が『運』であったように、職場での対応も『運』なのだろうか。

そして、その『運』任せの状況が今のコロナでも同じ状況を起こしているような気がしてしまう。リモートワークが出来るかどうか、コロナ後遺症があるかどうか、死ぬかどうか、全て『運が悪かった』で終わっていい事なのか。


地下鉄サリン事件は、オウム真理教による被害ではあるけど、社会の仕組みだとか警察の対応だとかいろいろなものをあぶり出した……はずなのに、あれから20年以上経っていてその教訓が生きているとは思えない。


少し気になった部分に触れていく。

インタビューの中に『事件後に離婚を切り出した』という人がいた。

離婚するのは夫婦の問題なので、その前から冷めていたから……というのは分かる。しかし、サリン事件から帰って来たら子供が「目が痛い」と言ったから服を処分したという話には違和感しかない。
その子供の症状はどれくらいだったのか。病院には行ったのか。視力に影響はなかったのか。日常への影響は。と、色々と思うのだが、そのインタビューではそれだけで終わっていた。
でも、その辺りでも察してしまう。子供にそれだけ興味がない事がすでに亀裂なのだ。夫婦間でお互いに興味がないと言うのは分かるが、『子供』は別だ。二人の子供なのだから、責任はそれぞれにある。それがすっぽり抜けている。

男性が『作っただけの人』になるのはよく聞くが(……というか、うちの父もそれだが)、それで「妻は自分の心配はしてくれなかった」と書かれても。あなたも子供の心配してないじゃないかとしか思えなかった。
なぜ、自分は子供の心配をしてないのに、妻には自分を心配してもらえると思えるのか。おそらくだが……妻が妊娠子育てに奮闘してる間、あなたはどれだけ妻の心配をしたのかという話なのではと思う。


最後の方に「呉服屋で自営業をしている」という人へのインタビューがあった。
今までは勤め人だったが、こちらは自営業なので働けないとそれだけ収入が減る……と、リアルな話だった。これも国の支援などはなかったんだなと思ってしまった。
そして、それとは別にして、着物はこの先先細りするしかないと思うという話が載っていたが、私も着物は好きと思ったが調べれば調べるほど『めげる』

理由は面倒だからだ。あれもこれも準備しなくちゃいけない。着付けも簡単ではない。昔の人はそんな難しいものを本当に着ていたのかと言いたくなるが、あれは『格式高い家の人の着物』が今に続いているだけで、庶民が着たのはあんなものではないというのを見かけた。

もっと庶民向けに簡単に……もしくは「洋服と組み合わせて」着れる様になれば、着物も楽しいと思う。
着物が売れないのは単純に『高い』『面倒』『非日常過ぎる』の三点セットが揃っているから。

着物好きと思ったけど、私はたぶん『民族衣装』が好きで、『非日常感』が好きなだけかもしれない。しっかりとしたマナーやルールに沿って着たいわけではなく、気楽に日常に合わせて着てみたいと思いつつ、出来てないケド。
時々、ツイッターで気楽に着ているのを見ては、それいいなと思う。着物というか浴衣は持っているが、洗濯が大変で今は着ていない。洗濯のしやすさも大切。


「こういう大きな災害が起こったときに、組織が効率よく速やかに対応するというシステムが、日本には存在しないのです」344p


これ、まさしくそうだなと思う。
そして、現在においても同じく事が起きてから対処しようとするが『ノウハウ』どころか『専門性』もなく、『なるべくなら金を使いたくない』という思惑まで働いて……ろくな対応がなされてない事を証明したコロナ渦。

コロナ渦が証明したのは、マスク・うがい・手洗いをすればインフルエンザはほぼ防げる。という事ぐらいな気がする。やる事と言えば、『距離を取ってマスクとうがい』を呼びかけるだけ。

全数把握をしていたではないか……とか言われそうだが、あれは医療従事者の負担を減らすシステムを構築する前にやめます宣言した様にしか見えない。一部自治体では『システム更新で負担が増えるくらいならやめてくれ』ということで全数把握取りやめを国に要望したのかもしれないという勘繰りまでしてしまう。
要は国のやる事はほぼ信用ならんという事に変わりはない。ろくな事をしないなら、何もしないでいてくれた方がマシ。

『効率よく速やかに対応するシステム』どころか『非効率に人のボランティア精神に付けこむシステム』しか、存在しないのではないだろうか。


という事を考えてしまった。



222pに『統一教会』という単語が出ている。正直、何故唐突にこの単語が出ているのか分からなかったが、その前を読むと「霊感商法」「壺の話」などと書いてあって、それが統一教会に関する話なのかと分かった。でもこれ、今、話題になっていなかったら全然分からなくて繋がらなかったと思う。私には統一教会に関する知識がなかったからだ。

オウム事件の時点で『統一教会』も問題視されていた事が、この本で理解できた。ただ、出てくるのはここだけで気が付かなかったら読み流していそうだなと思う。


222p辺りは弁護士がオウム真理教と闘っているという話なのだが、警察側は一切危機感を抱いていなかったという事も書いてある。この頃も今も宗教に関する事はタブー視されるのだろうか? それとも、問題視されないのだろうか。オウム真理教の事件も警察が真っ先に動いたわけではなくて、周囲の人たちが少しずつ証拠だとか色々と固めて警察に提供して……という形っぽい。


宗教ってそんなに神聖なのだろうか?
何を信じてもいいけど、相手の人生を殺すような宗教はカルトだと思う。



今の時代も変わらないよなぁという気持ちになってしまったけど、当時の感じは掴めたので満足。

『アンダーグラウンド』