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「アフターダーク」を読んで

2024/02/27

アフターダーク (講談社文庫)
– 2006/9/16 村上 春樹 (著)

「アフターダーク 著:村上春樹」を読んでみた。
もう読まないと言ったくせにと言われそうだ。
これも調べてみたら『他の作品と毛色が違う』というのを見かけて、気になったので読んでみた。

確かに毛色が違うが、基本的なものは変わっていない。

マリという少女の過ごす一夜が書かれている。
マリが高橋という男の子に会って、その縁で中国人の女の子がラブホでトラブっているのを助ける。その後、高橋と話したり、ラブホのスタッフと話したりして、一夜を明かす。
というストーリーラインが一つ。

もう一つマリの姉エリが眠っていて、起きるというよく分からないエリのストーリーが絡む。

さらにここに、中国人の女の子のトラブル相手の白川のストーリーも絡む。が、この白川のストーリーは女の子から奪った携帯電話をコンビニに放置して、それを高橋が拾ってしまう……という絡みしかしない。なのに、長々と仕事のシーンなどが差し込まれている。


・意味の分からないシーン(エリのシーンはほぼ意味が分からない)が多い。
・音楽が差し込まれるが、それが示している意味が分からない。

という点においてはいつもの村上春樹だなと思った。

エリのシーンは意味が分からないと書いたが、アレが『現実のような夢』という意味ならば、いつものような『夢』をテーマにした作品なのだろうなと思う。厄介なのは、何だか分からないままに物語が進むのでエリのパートも後から何か事件になるのだろうか?と思ってしまった事。

何も起きずに朝になってしまったのには笑ってしまった。


起きた事件と言えば、中国人の女の子のトラブルぐらいだろうか。いや。細かい点では色々と起きているけど、どうせなら朝までに白川が殺されているというような話を読みたかった。

物語の中では、白川は殺されない。エリは目覚めない。マリは朝になると真面目に家に帰る。

不良を書きたかったのかもしれないが、おそらく村上春樹の中にそのストックはないのだろう。どこまでも『真面目』でしかない。読んでいても、中途半端な不良に違和感しかなかった。全てのキャラが『夜の街にいる』には真面目過ぎる。


主人公のマリもだが、高橋という男の子も……というか、男の子ならもう少し危険な目に合っていてスレてそうな気がするのだけど。エロい下ネタは言えるケド、気に入った女の子を無理やりどうこうしようという意気込みはない。

つまり真面目。

ラブホスタッフも基本的には堅気で、スレてないというキャラになっている気がする。


女の子が暴力を振るわれていた……というシーンはあるケド、暴力を振るわれてる最中の描写はない。


エログロのない……でも多少の下ネタはある作品。
それでも私が、村上春樹作品を好きになる事はないけど


これも同じく『眠り』や『夢』がベースの物語にしか見えなかった。
そして、説明的な台詞回しに違和感しかない。不良というものが出てくるけど、不良っぽくない。天の高みから闇を眺めて感じがする。

脇役っぽい『コオロギ』や『コムギ』のラブホスタッフキャラはおちゃらけすぎ。


夢の解釈は人それぞれなのだろうけど、私はもうこの人の作品の夢の解釈はしたくない。闇は薄い。

帰る家があるマリと帰る場所がないコオロギを対比させるのか。
姉がいるマリと兄弟のいない高橋を対比させるのか。
か弱いマリと力強いカオル(元プロレスラー)を対比させるのか。
起きていて事件が起こるマリと、眠ったまま何も起きないエリを対比させるのか。
お金の心配のないマリとお金のために身を売る中国人を対比させるのか。
暴力を振るうことのないマリと暴力を振るった白川を対比させるのか。

どれも、対比させるには情報が足りず『なんだかわからないけど』すごいよね。可哀想だよね。強そうだよね。で終わる。


圧倒的に情報が足りない。闇は光があってこそ、存在するが、光と思われるマリの存在はとても薄い。


家があって家族がいて、明日の心配をしなくて良くて、親はすっかり娘を信頼しているから帰って来なくても気にしない。それ、放任って言うんだぞ。一人暮らしならいざ知らず、親と同居で『夜に友達の家に泊まる』のを安易に信じるのか。まして、女の子の親だろ。成人済みなら分かるが、まだ未成年の年齢なのに。としか、思えなかった。

しかも、携帯を持ってない……ありえない。最低限、携帯を持たせて相手の家に連絡を入れてから許可ではないのか。

娘を持つ親の不安はスルーされているのもモヤっとする。虐待家庭だから、こうなのだと言われた方がマシだが、そうなるとマリもまた光にはなり得ない事になる。


こういうところが、嫌いなんだ。


唯一、中国人を迎えに来た男のシーンは暴力的で横暴だったけど、それもまた『女性にしか暴力をふるえないクズ』でしかないので、何とも言えない。いつもの通り、上品な舞台で上品なことを書いてた方が村上春樹らしいと思う。

『毛色が違う作品』というのは楽しめたのでその点においてだけは満足している。

『アフターダーク』