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「あなたを好きになった瞬間」を読んで

2024/02/27

あなたを好きになった瞬間
– 2018/2/2 たちまちクライマックス委員会 (編集)

「あなたを好きになった瞬間(とき) 編:たちまちクライマックス委員会」を読んでみた。

全十話の短編。全て恋愛物。
恋愛物苦手なのですが、ほんわかする物語は好き。特にぎすぎすした大人の恋愛を読んだ後は中高生の恋愛物は心にスッと優しく入ってくる。


ただ一点、残念だなと思うのは全て『女の子と男の子』のカップリングという点。同性同士や異種族(キツネとオオカミなど)同士のファンタジーがいくつか混ざっても良いような気がする。
あとは女の子が奥ゆかしく、男の子が若干乱暴というテンプレな書き方も…乱暴な女の子と奥ゆかしくて消極的な男の子がいてもいい。

あれ? 2点になってしまった。


一作ずつ一言感想。

・ヤギと私……南潔
男の事仲良くなった事で他の女の子に嫌がらせを受け……という定番(?)のお話。そこにヤギの話が混ざってちょっとだけお勉強になる。ラストの頭突きはヤギを絡ませるためなのだろうけど、現実的には無しかな……頭突きも暴力なので。
定番すぎてつまらないけど、出だしとしては読みやすいと思う。

・止まれ、止まれ、すすめ!……菜つは
先生に恋する女生徒が大会の帰りに先生の車で送ってもらって……家に帰るまでの短い間に告白できるかというドキドキする話。
というのは分かるのだけど、一作目と同じく私の好みとは少し外れている。先生が上手く生徒をいなすのかなと思えば、そうではなかった点はちょっと意外だった。意外な展開と『人を視るとは』という点をさりげなく示しているラストが好き。

・約束の朝……霜月りつ
転向してきた主人公は、隣の席の女の子から何度も繰り返す同じ日が続いていると訴えられる。同じ日々から抜け出すにはという話。
タイムループものになるのかな。好みの話で最初から引き込まれてしまった。前2作が女の子視点だったけど、このお話は男の子視点。だからこそ、『女の子の話は本当か』という疑問から『本当だとしたら、どうやってその日々から抜け出すか』という問題に変わっていく。前2作が恋愛(嫉妬と嫌がらせ・告白)が前面に出ているのに対して、この作品は恋愛よりも冒険(タイムループからの脱出)がメインなのが好き。

・雨の日に、傘はいらない……櫻いいよ
子供の頃は仲良くしていた幼馴染が中学になると素っ気なくなった。雨に打たれて帰った幼馴染が風邪をひいたと聞いてお見舞いにいく……という話。
最初の子供時代の部分は女の子同士かと思ってしまった。読み進めると女の子と男の子だと分かる。お互いに同級生のからかいが嫌で距離を取っていたというラストは、子供時代あるあるでつまらない。

・夜の人魚……霜月りつ
おばあちゃんの家の近くの海で人魚に助けられた話を先輩に打ち明ける主人公。その後、先輩が夜中にいなくなって……という話。
最初の人魚に助けられるシーンがすごく好みだった。人魚との恋愛物??と思ったけど、普通に人間の先輩との恋愛物でした。人魚の描写や海の風景などの描写が素敵だったのもいい。
主人公は先輩を探しに夜の海へと行くが、人魚が先輩を助けてくれる。しかし、主人公は先輩が好きだと人魚をふる。
好みだけれども、細部はちょっと……と思う点もある。人魚があっさり引き下がるのとか。文字数という大人の事情なのだろうと思ってしまうあたり、物語は素敵だけど入り込めていないなと思う。

・チョコレートなんて絶対食べない!……朝比奈歩
引っ越しの日に幼馴染の男の子からチョコレートを貰い、それ以降チョコレートが食べられなくなる主人公。再会後にまたチョコを貰って……という話。
主人公はチョコを食べない。すると男の子が「食べるまで作る」といい、女の子は食べないと決める。食べなければずっと自分のためにチョコを作ってくれるから。
……分かるけど、それはそれで女の子も気持ち悪いなと思ってしまう。素直にチョコを食べて『ずっと私のために作って』と言えばいいだけの話に、これだけ拗れた行動で『好き』を示そうとするのは気持ち悪い。
でも、それを『良し』としてしまう文化がある事も分かっている。

・恋愛リクエスト……南潔
スマホを買ってもらった主人公は連絡が取れる『フレンズ』というアプリを入れて友達と連絡を取ろうとする。一度に友達リクエストが沢山来てしまって、よく確かめもせずに『フレンズ』を増やしていくと気になる男の子の妹がリクエストの中に混ざっていて……という話。
男の子の妹があれこれ世話を焼いて、二人を繋ぐという定番物語。
女の子が告白されて焦る男の子とか、からかいが嫌で距離を取っていたとか……あ。上記にも書いた設定ですね。
中学生設定だと『からかわれて距離を取る』というのが定番なのだろうけど、中にはそんなのを気にせず上手く言い返すキャラがいてもいいと思うし、『付き合う事は悪い事ではない』というメッセージを放つ大人キャラが出て来てもいい。正直、またか……という感想しかない。

・五分後の景色……櫻いいよ
電車の中で告白されて付き合ってみたけど、思っていたのと違った……という話。
高校生という設定がいい感じに『聞きたいけど、聞けない関係』を醸し出しているような気がする。相手の事を思うと聞いていいのか迷うと言うのは分かる。でも、私の好みとは少し外れている。
どうでもいいけど、電車通学って痴漢が出ないのだろうか。出会ってひとめぼれより、痴漢から助けてもらっての方が説得力があると余計な事を考えてしまった。

・満月のラジオ……一色美雨季
子供の頃に作ったら字をの電源を入れると『誰かの伝えられなかった気持ちを伝えるラジオ』というものが流れてきて……というお話。
好きな幼馴染の心中がラジオから流れて二人はお互いの気持ちを確かめ合うという定番ラスト。
『満月の不思議な力』という設定や『気持ちを伝えるラジオ』は好み。

・こっそり接近大作戦……菜つは
気になる女の子のSNSのアカウントをうっかり見てしまった主人公はこっそりとそのSNSを覗くようになって、女の子の事を知っていく……というお話。
最終的にこっそり覗いていたSNSにアカウントを作って、うっかりといいねを押して関わってしまい、バレていく。少しずつバレていくのが面白い。
ただ、このやり方は一歩間違うとストーカーにもなりかねないので、どうかなとも思う。恋愛物なので『お互いに好き』という話になっているけど、現実は『片方は好きではない』ということもあるわけで……。


恋愛物があまり好きではないのは『片方にその気がない』場合は、ただの迷惑行為にしかならないからだ。場合によっては、犯罪行為にすらなる。

『接近大作戦』では、主人公の男の子が自分は犬派だから「彼女には犬派になってもらおう」と思っている。……ストーカーするにふさわしい支配欲。自分が変わる気はないし、アカウントを覗いている事も好きだからで正当化されてしまう。相手が自分を嫌うかもしれないという不安はあるが、「自分に気がある」という謎の自信も持ち合わせている。ある意味、気持ち悪い。ただ、これが子供の思考だと言う事も分かる。……だとすると、それを指摘する大人が不在という事が気持ち悪いのかもしれない。


恋愛物全てがそうだとは言わないが、自己中心的なキャラクターが多い気がする。しかしその自己中心さが『恋心』で許される。相手の気持ちを無視して、自分の行動を正当化するシーンが多い。さらに大人不在でその思考や行動を指摘するシーンは皆無。
結果、子供たちはそれが『正しい行動』だと認識する。

児童書は大人のようなエロは無いが、やはり恋愛系の加害は吐き気がする。
『約束の朝』のようなファンタジーが無難でいい。もしくは、意外性のあった『止まれ、止まれ、すすめ!』オチが大人な対応で好き。


姪っ子が借りてきた本を読んでみた。姪っ子はいつもの通り、読んでいない。

『あなたを好きになった瞬間』