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「LGBTなんでも聞いてみよう」を読んで

2024/02/27

LGBTなんでも聞いてみよう 中・高生が知りたいホントのところ
– 2016/8/3 徳永 桂子 (著), QWRC (著)

「LGBTなんでも聞いてみよう 中・高生が知りたいホントのところ」を読んでみた。

子供向けのLGBT解説本。
ネットでいろいろ調べて知ってる事がほとんどだったけれど、いくつか突っ込みたい。

P26・27の「身体の性」の説明。
男でも女でも色んな身体があると説明されているけど……これがすごく、紛らわしいなと思ってしまう。
だったら、外性器が男性器で内性器が女性も存在するか…と言われると存在してしまうわけで。いや。存在するんだけど。その人たちはどちらに分類されてるの? その人たちの性自認は?という話になるわけで。
確か基本的には、外性器で分類……ではないのか。ん?今は色々あるから、外性器だけでの判断では出来ないんだっけ?
と、身体の性別って突き詰めると複雑すぎて、当事者以外が疑問に思って調べても上手く情報が出てこない。エセ情報も混ざるネット上だと尚更。

さらにツイッター上では『体の構造が一般的な性別に当てはまらない事で勝手に性別はグラデーションだというのは差別』という意見まであって……カオス。


身体云々という見えない部分の話よりも、見える部分の顔・喉仏・肩幅・腰つき・仕草などで『男性っぽい、女性っぽい』と勝手に判断して性別を決めないという点は一切入ってなかったなと思った。

さらに一番引っかかったのはP30『女子ですが、アニメとかおもちゃとか、男の子のものが好きです。これって『こころの性』が男って事ですか?」という質問に

【あなたは、もしかしたら「こころの性」が男かもしれません。】

と答えてしまっている点。異性のものが好きだったら、こころも異性なのか……そんな馬鹿な。


トランスについて調べれば調べるほど、違和感しかないのはそれは『社会的な性』と切り離せないという点。身体の性と違うというのはまず置いておいて、ここでアニメもおもちゃも女の子のものが好きで女の事して対応されるのも構わないけれど、わたしは『男です』とか……または逆で『女です』というのを見かけた事がない。

必ずと言っていいほど、異性装から始まり、異性対応が必須とされる。
もしトランスジェンダーが本当に『体と心の性が違う』のであれば、もっと『身体の違い』がピックアップされてもいい気がする。つまり、身体だけを異性に変えて、社会的なものは元の性のままとか。……それが認められているとは聞かないし、診断に『社会的に性適合できるか』という点がある事で、やはりそれは『こころと身体』ではなくて、『社会と身体』のズレなのでは?

その辺りに私は首をかしげてしまう。
つまりトランスとは『社会的な性』と『身体の性』のズレで、『こころの性』と『身体の性』のズレではないのでは?

トランスは『確固たる性的役割に固執して、異性の性的役割をこなしたいと思う人』としか見えないわけで。女の子がレンジャーもの好きではダメなのですか?男の子がプリキュアに変身してはダメなのですか?
異性のものを好きになってはダメというのが、トランスというジャンルなのですか?という気持ちにさせられてしまった。


多様性を認めると言いながら、トランスというジャンルは『性的役割』を押し付けたための歪みにしか見えない。

アニメやおもちゃに性別は存在しない。誰が何を好きになってもいいという多様性が認められた社会ならば、そもそも『男の子のものが好きなのですが』なんていう悩みも存在しない。悩む必要がないからだ。
そこで、『トランスかも』と言ってしまう事で、多様性排除……にはならないのか?

そして、p51の【「性別のかたち」のいろいろ】
【トランスジェンダーの人たちは、自分の胸がふくらむことや生理がくること、あるいは、声変わりしたり筋肉がつくことに「すごくいや」「こんなの自分じゃない」という感覚を持ったり、なんとかそうした変化を止めたいと思ったりします】
この辺りもモヤとする。女性が皆、胸がふくらむことや生理がくることに嫌悪感を持たない……わけではない。胸がふくらむことや生理がくることに嫌悪感をもつ女性もいるし、自殺未遂まで起こしたという話も見かけた。生理の度に自殺未遂を起こしたが、彼女は男性として生きたいわけではないので子宮摘出などが出来なかった。だから、海外で処置をしてきたという話。事実かどうかは分からないが、気持ちは分かる。
つまり、身体の変化を止めたいが異性として生きたいわけではない人間は諦めるか死ぬかの二択しか方法がないわけで。

「すごくいや」ではなくて、死んでいいから止めたいというぐらいは書いてほしい。
そして、トランスではなくてもそう思う事も。

そう言う風に私が思っているから、益々トランスの『こころの性』がさっぱり分からないわけで。


女性も男性も「いろんな人がいる」と書きながらも『トランス』について説明するには、いろんな人を踏みつぶさなければ説明できない部分が出て来てしまう。


「トランス」という存在が『女性も男性もいろんな人がいる』という多様性を排除してしまうという本末転倒さに……何とも言えない気持ちになってしまう。


トランスは『身体を変えてでも生まれた時に決められた性とは違う性として社会に受け入れられたい人』と書いてくれた方が……まだわかりやすい。
こころの性とか身体の性とか言われると、『そう思う女性もいる』『そう感じる男性もいる』という点が踏みつぶされていく。



あと十年後には、全く違う解説本が出てきている事を祈っている。

『LGBTなんでも聞いてみよう』