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「キリン解剖記」を読んで

2024/02/22

ジュニア版 キリン解剖記
キリンの首の骨が教えてくれたこと
– 2021/12/13 郡司 芽久 (著)


「ジュニア版 キリン解剖記」を読んでみた。

コウモリと同じものかなと思って読んでしまったので、肩透かしを食らった。
コウモリの方は、延々と『コウモリについて』が書かれていた。それでいて、その文章が『コウモリが好きだから、コウモリを知ってもらいたい』という気持ちであふれていた。

対して、このキリンの本は『解剖記』なのだ。つまり、キリンについて書いてはあるがほとんどが『解剖』の話。さらに言うなら、この文章から感じるのは『こんなすごい事を発見できた私の事を知って欲しい』という『私の紹介』に感じた。


キリンの紹介ではない。著者である『郡司芽久』という人の紹介である。『キリンの話』として読もうとするとキリンがいない。読めば読むほど、著者の事が分かる仕組みになっている。


キリンの事で分かるのは『偶蹄目キリン科に属する動物』『キリン科に属ずるのはオカピとキリンしかいない』『キリンは4種類。日本の動物園にいるのはほとんどがそのうちの2種類』

長々と書かれている『キリンの解剖』に至っては、『著者は最初は訳も分からず解体した』『著者は初めての解剖は知識がなくて何が何だか分からなかった』『著者はキリンの第一胸椎が動く事を発見した』という……著者の話満載。


先にコウモリの話を読んだために比べてしまうのだが、それにしても『キリンが好き』よりも先に『頑張っている自分が好き』が前面に出過ぎている。
コウモリの本が『コウモリについていろんな事を知る事が出来た』という満足感で終わったのに対して、キリンの本は『子供に夢を持ってもらうための本だったのか』という感想で終わった。


『ジュニア版』となっているので、所々『好きを続けていれば、いつか仕事になる』というような事が書いてある。
確かに『好き』は大切だと思うし、子供に『好きを大切に』というのは分かる。が、大半の人間は大人にその『好き』を散々踏みつけられて現実を知って諦める。
何度も『チャレンジし続ける』というのは、本当の馬鹿か、天才か、現実が見えていないかのどれかだ。


そうは言っても、子供に限らず大人にだって『好き』は大切だとは思う。キリンの話じゃないじゃないか……という感想で終わるのかなと思っていた。


しかし、最後で『博物館に根付く「3つの無」という理念』と言う言葉が目に留まった。
【無目的、無制限、無計画】に標本を作り続けるという話。
「何の役に立つのか」は二の次で100年後に役立つかもしれないと、作り続けるらしい。


なるほどなと思った。目的も制限も計画もなしに、雑食のように知識や経験を積んでいつか『目的の仕事に就いているかもしれない』というこの本の趣旨とも合う。そして、忘れがちなその3つの無が大人にも必要なのかもしれないと思った。けど、良いと思ったのはそこだけ。



そして、悪い大人な私は色々とモヤッとしたものが拭えなかった。
まず、これは『東大合格者』の話なのである。東大合格する時点でそれなりの資産レベルというのを聞いたことがある。とすると、この著者もそれなりの資産レベルなのでは?と。
最後の方に両親の話がチラッと出ているが、『父は普通のサラリーマンで、母は専業主婦だ』

この言葉で父親が一家を支えられるほどの資産レベルという事が分かる。夫婦共働き世帯が専業主婦世帯の2倍以上になっている現在、『母が専業主婦』というだけでそれなりの資産がある事を示している。この著者は一般的な世帯の人ではないのだ。


さらに東大にいたから解剖が出来たという事なのでは?と思ってしまう。これ、地方の大学に入っても、そんなに解剖チャンスがないと思う。もちろん、努力は当たり前なのだが、その努力が出来る土俵に立つ事が出来る家庭に育っているかという途方もない運要素が絡んでるなと思うと……『好きな事を仕事にしよう』は貴族レベルの人が言える事で庶民レベルの人はそんなものの前に『生活』が横たわってるんだよな。という暗たんとした気持ちになった。


ついでに『母親は50歳を過ぎてから調香にはまり、調香師になった』と書いてある。素敵な旦那さまの稼ぎがあるから出来る事なのでは?という、貧乏人の僻みのような感情が湧いてしまった。

コウモリの方が読んでいてワクワクして『外に出てコウモリを探そうかな』という気分になったのに対して、キリンはモヤモヤして『キリンを見に動物園へ』とは思わなかった。むしろ、金の力ってすごいなと言う感想を持ってしまった。

動物園でキリンを見ても、死んだら東京近郊で解剖されるんだな……と思いながら、これから見てしまいそうである。そんな本だった。ついでに解剖されるのは様々な動物という事なので、動物園や水族館に行ったら次からは『これが死んだら解剖……』と思いながら見る事になりそうだ。


解剖自体には嫌悪も何もないが、そんな気持ちで動物を見たいとは思わない。

子供に夢を持たせるにはいい話。だけど、内容が子どもには難しい気がする。研究者の努力の話として読ませるものなのかもしれない。



::追記::
色々書いたけど、この後にテレビでキリンの人を見てしまってからTwitterでも見かけてフォローしてしまった。
研究者の努力のあれこれはどうでもいいけど、動物の話は嫌いではない。

『ジュニア版 キリン解剖記』