優しい暴力の時代 – 2020/8/26
チョン・イヒョン (著), 斎藤真理子 (翻訳)
「優しい暴力の時代」を読んでみた。韓国人作家の作品。
これも短編集。少し文章が硬くて読みにくかったけれど、内容は小さな『暴力』と苦悩と葛藤が書かれていた。
『三豊百貨店』
これだけ、ちょと色が違う作品という事で、作者のアトガキの後ろに載せられていた。これを先に読んだ。百貨店崩壊の事件は聞いたことがある……ような気がする。と思いながら読んだ。女性同士の交流の話。
『ミス・チョとカメと僕』
父親の愛人と交流する話。父親の愛人という説明がなければ、ただの世代間交流とでも読めてしまいそう。亀がいい味を出して二人を繋いでいる。でも単純な、交流ではなくてそこには『亡くなった父親』が挟まっているシュールさ。
『何でもないこと』
高校生の出産に慌てる母親たちの話。父親が一切出てこないし、男の子の方は『母が育ててくれたらいい』と親に丸投げ姿勢。ある意味リアルで……リアルすぎて怖い。親たちの打算もすごいと思った。
『私たちの中の天使』
よく分からない契約のお話し。人を殺す代わりにお金を貰ったというが、殺したかどうかは分からず未来に禍根を残している。このお話しで良いなと思ったのは、『したくないのにしようとするな』と喧嘩したというところと、『作らないつもりだったのに出来た』というところ。しっかりとセックスについて考えていても、子供は生まれてしまう。……でも、物語の論点はそこじゃないんだろうな。
『ずうっと、夏』
ちょっとファンタジーチックな少女たちの交流の話。そこにしっかりと差別と侮蔑も入れ込んである。子供の話だからといって『みんなで仲良く』ではない。太っているので『ブタ』と言われる。引っ越してすぐ現地での『ブタ』と言う言葉を覚えるというシュールなシーンに目が点になってしまった。
『夜の大観覧車』
既婚女性の淡い恋と諦めの話。描写が上手く逸らされていて、二度見しないとそれが『そういう』意味だと読み取れなかった。すごいな。読み飛ばしたらただの片想いになってしまう。大人の恋って難しいという理解もないとさらにそれが『何』なのかすら分からないかもしれない。たぶん、十年前に読んでいたら、意味が分からず首を傾げたと思う。大人な話だった。
『引き出しの中の家』
これもよく出来ているなと思った。事故物件を掴まされる話。その事故物件を掴まされる理由も社会構造の問題として書かれていた。少し説明臭いのが難だけれど、納得できてしまう。
『アンナ』
これも女性同士の交流の話……なのかな。格差の話なのだろうけど、いまいち掴めない。
どの作品も韓国を基本的に舞台にしているので、正直、背景が上手く掴めない。特に住宅事情は所々で出てくるが日本と違うので頭に上手く入って来ない。
あとがきに説明が入っているが、その説明を読んでもざっと『手付金がいる』というくらいしか理解できない。日本で言うと、敷金礼金といったところなのだろうか。
とはいえ、いくつかの作品は読み応えがあったし、拒否で喧嘩をするというのは心地よかった。日本の男性作家のセックスなんて、無理やりしても気持ちいいという意味不明なものだったので……そんなものよりは『やりたくない』と喧嘩をするカップルの話は素敵すぎる。そんな話を読みたかったんだ。という気分になった。
韓国って実は日本よりも素敵な作品があるのではないか……という期待を持ってしまった。と、同時にその話を日本の作家で読みたい!!という気持ちもある。
対等な性の立場を描いている作品はないのかな。出会えてないだけ?