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「黒い家」を読んで

2024/02/22

黒い家
– 1998/12/10 貴志 祐介 (著)

「黒い家」を読んでみた。

貴志祐介作品三冊目。
……もう、お腹いっぱいなので、読まない。

内容は保険会社の支払い査定の部署で働く主人公が出会う、恐怖と混乱の物語。


保険会社は少しだけ働いたので、うっすらと様子が分かる。営業でさっさとやめたけど。そして、保険会社は露骨な女性差別がはびこっているというのも分かる。なので「女性職員」なのだ思いながら読んでしまった。

他にもいろいろあって、保険会社には良いイメージがない。そこに差別とホラーが相まって、別の意味で私にとってホラーだなと思った。作品とは無縁の私個人の経験に基づいたものなので、『作品が怖かった』という意味ではない。


とりあえず、個人的なあれこれは省いてなるべく『作品』に関しての感想を書くなら、私にとってはそこまで怖くなかった。というのも、『誰かに理由なく襲われる』『なぜ、こうなっているのか分からない』という恐怖作品は他にも何作か読んだことがあるので。……主にネット小説で。


先にネット上で『貴志祐介の一番良い作品』というので調べて、この『黒い家』の評価が高い思ったので読んだのだが、期待値を高くし過ぎた。もちろん、作りは他の作品と同じく緻密だった。いや。他の作品よりも緻密でこの作品が『最高』と言われる理由が分かる。

細かい知識と、丁寧な描写。じわじわと迫ってくる恐怖。それらは先に読んだ『悪の教典』『新世界より』よりも深い。


一点、これを読んでよかったと思えたのは、エロがない事。『悪の教典』はともかく『新世界より』のエロは意味が分からなかったのだが、この『黒い家』の性的描写は男性側が上手く出来なかったというものだった。もちろん、それも伏線でしっかりと物語に必要な事が理解できるシーンになっている。

性的描写について苛立つことがなかった分だけ『黒い家』は読んだ価値がある。


同時にこの作家は最初からこの書き方で、これが好きでこんな価値観で物語を書いているというのが透けて見えてしまった。特に『新世界より』の中途半端な男女差別が分からなかったのだが、がっつり男女差別の価値観に染まっている中ではあれが限界だったのだと理解できた。




保険会社の説明のあれこれは……自殺は私が働いたときは2年だったなぁとか、女性はどんなに頑張っても支部長止まりで上は男性しかいない。そして、営業員は女性しかいない。営業員は正社員ではない。

委託職員……だったかな。とにかく、会社と正社員の労働契約を結んでいるわけではなく、『これだけの契約を取ってくるので、賃金を貰う』という契約になっている。なので、契約をとれないと即クビになる。

物語の中で、すぐに辞めた営業員の中年女性の話が入ってくるけど、あれ、保険会社側は少しでも契約が増えればラッキーというだけの使い捨てにされた人なのにな……と思いながら読んだ。
保険の営業員の入社式は毎月あるのですよ。毎月人が入ってきて、毎月人が出ていく。作品にもあったけど、新人営業員を連れてくるノルマさえあるので仕事が出来ても出来なくても『営業員として契約を一件でも取ってくればいい』という話。

保険会社は結構エグイ仕事をしているので、もう、保険会社という舞台だけでホラーだよなと思えてしまう。


そして、上と下がきっぱりと分けられているのが保険会社。今は違うかもしれないケド。基本的に営業員に男性はいない。研修中の新入社員は別。男性は役職が付く事が約束されているけど、女性は営業しかなかった。


保険会社のあれこれを知っているだけで、別の意味でのホラーが際立って、作品の物語としての怖さはない。怖くさせようとしている点は分かるのだけど、私にとってはそこはどうでもよかったので尚更。たぶんこれは、相性の問題。



さて、他の作家の作品を読もう。もう、この人の作品を読む気はない。

『黒い家』