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「美徳の不幸」を読んで

2024/03/11

美徳の不幸 (河出文庫 サ 1-8 マルキ・ド・サド選集) – 1992/12/4
マルキ・ド・サド (著), 澁澤 龍彦 (著)

美徳の不幸 (河出文庫 サ 1-8 マルキ・ド・サド選集)

「美徳の不幸 作:マルキ・ド・サド 訳:澁澤龍彦」を読んだ。

買った本。SM(サドマゾ)のサドである。……という事で読んでみた。
姉のジュリエットは悪徳に溺れ、妹のジュスティーヌは美徳を貫くという物語。
この本は妹のジュスティーヌの物語部分だけで最初に書かれた中編を翻訳したものらしい。

実は先に姉のジュリエットの物語『悪徳の栄え』を少しだけ読んだ後に、妹の『美徳の不幸』に変えた。というのも『悪徳の栄え』を先に手にしていたけど読み切る前に『美徳の不幸』を買ったので、そちらをやはり先に読もうという気になったから。

美徳を貫くとは……一体何?と思ったけど、処女を守る事と『困った人を助けようとすること』のようだった。
処女については男どもがキモイ……としか感想はない。

困った人を助けるについては、知恵と経験ががなさすぎる……というだけ。


あらすじ:ネタバレ:
ジュリエットとジュスティーヌの姉妹は父親の破産で修道院を追い出されるというところから物語は始まる。
中世の時代は『父親の権威』が絶対で『父親が死んだら家族は路頭に迷う』というものというのを最近見た。おじおばが助けてくれるとか、祖父母が……みたいなものはないのかなと思ったけど、祖父母は死んでるだろうし、おじはハイエナだろうし、女であるおばには何の権限もないという所かな。母親については破産のショックで死んでしまっている。父親は逃亡。

とにかく、放り出された姉妹。姉はさっさと『身体を売ったおねーさん(修道院の知り合い)を頼ろう』と切り替えるけど、妹は『そんな不埒な真似できないわ』と二人は別々の道を行く。

そこで頼った神父や裕福な人にも身体を刺し出せと言われ、ジュスティーヌは断る。
それでも何とか職を見つけ、働くことが決まる。しかし、悪事に手を貸せと言われて断ると、『盗み』の罪を着せられて牢獄に入れられる。
他の女囚の脱獄ついでに一緒に脱獄するが、仲間になれと言われ、断る。そこで襲われそうになり逃げ出す。
逃げ出した先で男色家に出会い、その現場を見たことで脅され、その人の家で母親に付いて働くことになる。しかし、男色家が母親を殺そうとしている事を知り、それを母親に伝えたことで男色家の怒りを買い、追い出される。
その先でみつけた修道院に駆け込むが、そこは色ボケ坊主……もとい、女を囲う修道院でジュスティーヌも掴まって夜の相手になってしまう。
修道院の院長が変わった事で、そこから出ることができたが、次は贋金づくりの男を助けてしまい、着いて行くと裸で労働をさせられる。
そこも警察にばれて掴まって死刑になったところで、ロルサンジュ婦人である姉のジュリエットに出会う。死刑からも助け出されて、安心なはずなのに不安が抑えられずジュスティーヌは雷に打たれて死ぬ。


散々不幸な目に遭って、最後は死ぬ。そして、姉のジュリエットが改心する。というのは謎だった。いや。悪徳が良いっていう話じゃなかったのか?
ジュリエットが改心しちゃったら、『悪徳の方が正しい』と散々語ってきたうんちく、何だったんだ?になってしまうのだけど。



さらにその後に「ジェローム神父の物語『新ジュスティーヌ』より」という物語が入っていたけど、こちらは美徳の不幸とは物語が繋がっていない。
これらの物語は「ジュスティーヌ=ジュリエット物語」としては一緒なのだけど、『美徳の不幸(この本)』が最初の版の訳で、『新ジュスティーヌ』は三版目でかなりの改変をしてある。その三版目で追加された物語の一部が、この本の後半に入っている『ジェローム神父の物語』

だけど……ジュスティーヌもジュリエットも出てこない。グロ比重も多いので読むのは注意かもしれない。
『美徳の不幸』もエログロだけど、それに輪をかけて……『ジェローム神父の物語』はグロイ。


エロシーン用語が分からないので調べた。
埒(らち)をあける: 絶頂に達する。(片が付く)
腎水(じんすい):精液。
裁尾(さいび?):肛門性交
親嘴(ちんつおい):接吻。
玉門(ぎょくもん):女性の外陰部
笞(しもと):木製の鞭。木の枝などを使うこともある。

言葉が古すぎて、エロさ半減。脳内翻訳フル活動……しても分からないので、調べる羽目に。
しかも行動がよくわからない形で書かれてる。『侵略された』とあったので、これが処女が散ったという意味かなと思ったら実は肛門侵略だったり。
エロシーンは脳フル活用しても、さっぱりわからぬ謎シーンになり果てて、いろいろ諦めた。『とりあえずレイプシーン』というざっくり概要で飲み込むしかない。

さらには女たちの会話で『子供ができるのは4人の神父たちのうちの1人』という事が分かってやっと、他の3人は肛門でしかやってないんだなと理解した。子供ができたら薬を飲ませて堕胎するという話。後からわかる事が多すぎる。

エロだけじゃなくて、『悪がいかに必要か』というシーンもある。それが『悪いほうが得をするからそうしたらいい』という事をいろいろとこねくり回して、『悪の方が正しい』と言ってる。でも、そうやって『正しさ』を主張するほど『正しいことに価値がある』という『善』を求めてて滑稽だなと思う。

だから最後に『悪』だった姉のジュリエットが改心してしまうのかな。


系統はかなり違うけど、あれこれ御託を並べ立てるのはカミュの『ペスト』にも似てるなと思った。
エログロ色が強いので万人にはあまりお勧めできない。