誰もボクを見ていない:
なぜ17歳の少年は、祖父母を殺害したのか (ポプラ文庫)
– 2020/4/7 山寺 香 (著)
図書館で借りた「誰もボクを見ていない」を読んでみた。
祖父母を殺した少年事件の話。記憶にあるような気がしていたけど、たぶん、ネット上で記事を見たのかもしれない。
小学5年生から学校には通わず、ホームレースになり母と妹のために働いていた少年。
お金を得るために祖父母を殺せと母親に言われて殺した。
読めば読むほど、欝々としかしない。
色んな虐待ものを読んだけど、最終的に『子供が死ぬ』パターン読んだことがあっても、『人を殺す』パターンは初めてだなと思った。
でも、親子関係というのはある種の『強力なマインドコントロール』が出来てしまう関係だと思うので、なんでもできるんだなと思った。
怖いのは、書いてある事がある程度事実だとすると、少年はかなり賢くて勤勉な人間だなと思える。
この親の元に育たなければ、もっと有望な将来があっただろうにと思えるほどには、賢い。逆に書いてある事が全て少年の嘘だとしても、少年は賢い。
相手がどう思うのかが分かっていないと、他人をだますことは出来ないのだから。
事実か嘘かは、一旦脇に置く。
少年は母親にこれでもかというほど、振り回されている。保護の手が差し伸べられても、唐突に引っ越しを決めふらりと家を出る母親について行く。暴言や暴力は当たり前で、性的虐待まである。
そして、妹に対する『暴力の強要』までされている。
これでもかというほどの、虐待のフルセットにお腹がいっぱいです。
同時に、『どうやったら、そんな母親になるのか』の方が気になった。
本に書いてあるのは、『母親には会えなかったので、どんな人物か分からない』という事だけ。
周囲の話から、母親の親(祖父母)は「普通の人で、子供(母親の事)を可愛がっていた」という話だったということだけ。
だったら、なにがどうしてこんな人間になれるのだろうか。
子どもを働かせて、子供に対して『お前のせいで生活が苦しい』と責めたて、お金を用意させる。
虐待としては、ありきたり……なのかもしれないが、親のその思考をどうにかしなければ、子供は救われない。
少年はまだ若くやり直しの機会がいくらでもあるが、母親はまだ『妹』に接触する可能性があり、妹を風俗で働かせて少年の代わりをさせる可能性がある。
少年の事件は人を殺して終わりになったけど、妹にはまだ終わらない悪夢が残っている可能性がある。
次に死ぬのは、『妹』の可能性もあるわけで……そしてそれはきっと、『事件』にはならないかもしれない。
少年の事件の話なので、『少年にたくさんの支援者がいる』という話で終わりになったが、私はそれより『妹』と『母親』が再び接触する可能性があると書いてある方が、ホラーだと思った。性風俗に沈められる娘は注目を浴びない。
救われない。
親の権利が強すぎて、子供は踏みつぶされるだけ。